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理解しないという対応

Posted on 11月 17th, 2008 in 倉庫 by apj

 狐の王国の「似非科学対策としての「なんちゃって理解」を実現できないか」を読んで。

 実は、昨日の講演の最後で、「理解しないで済ませる」というのを話してきた。
 大抵のインチキ宣伝は、「ニセ科学で分かりやすく説明→ものすごい効果があって大変お得」や「ニセ科学で分かりやすく説明→今すぐ買わないととっても損(今のままだと病気になる、などという脅しがセットになっていたり)」という形をとっている。これに対抗するには、「みんな(向こう三軒両隣とか親戚筋とか職場の仲間とかマイミクさんとか)が使い始めて評価が決まるまで、半年か1年待て」が有効である。
 ダイエット法だとこんな具合だった。大評判になった朝バナナダイエットや納豆ダイエットは、1ヶ月くらいで終息した。健康被害を出した白インゲン豆ダイエットは、すぐに飛びつかずに様子見していれば、誰かが中って危険なものだとわかったはずだ。健康雑誌に出てきたあまたの健康食品で、長期に渡って生き残ったものはごくまれである。
 ニセ科学で来ようが科学で来ようが、慌てて飛びつかなくても消費者はほとんど損をしない。ってか慌てて飛びついて損をする場合の方が多い。だから、ややこしい科学もニセ科学も理屈はともかくとして、みんながどうするか、半年から1年様子を見ようよ、というのが、考えたり理解したりしなくても済む対応である。商品が本物なら、半年1年経てば、良いものになったり値段が下がったりして一層お買い得になる。危険を煽るだけのニセ物なら、待っていれば勝手に消えていくから買わなくても済む。
 早い話が、他人を実験台にして使用実績を見て判断しよう、ということである。流行が始まったばかりの時は、飛びつく人が多いかもしれないが、そういう人は、本物でなければいずれ飽きてしまう。半年後1年後にすっかり忘れているようなら、理屈はともかくその商品は大したことがなかったという結論が出る。
 消費者の全員がこの戦略をとると、何だか、合成の誤謬になりそうだ。しかし、世の中の「慌て者」がゼロになることはないだろうから、最初のテストは慌て者に任せて、残りの人はみんなでのんびり様子見するというのはそんなに無理な話ではない。これで100%ニセを却下できるというわけではないが、それなりのフィルタリングは可能ではないか。
 科学を勉強してニセ科学を見抜くことの費用対効果を感じられない人や、科学が権威ぶってて気にくわないという人には、プロの科学者としては、この「ぐうたら戦略」をとることを薦める。

 本当は、このテスト役はプロの科学者が務めるはずだったんだけど、わかりやすいニセ科学の方が良いという人や、ニセ科学の方を商売に使いたいという人や、無意味に科学を敵視する人が増えてくると、そんならうまいことお互いにテストし合う方法を考えようや、という解決策だって考慮に入れておかないと、苦労ばっかり増えそうな気がする。


ここからは旧ブログのコメントです。


by エンパワー at 2008-11-38 15:54:38
Re:理解しないという対応

思わず笑っちゃったのですが・・・

例えばマイナスイオンドライヤーは出だしのころ、過剰な期待を持った人や懐疑的な人がいたはずですが、普及して5年。流行の域を超えて完全に定着しつつあります。代替わりした高額商品も飛ぶように売れています。マイナスイオンを見下して検討もしてこなかった連中は、この現象をどう解釈するんでしょうか?

とSSFS氏は自慢してますね[:勝ち誇り:]


by apj at 2008-11-41 23:15:41
マイナスイオンは……

 ぐうたら戦略でも多少はひっかかっってしまうでしょうね。流行の期間が長かったですし。
 ただ、大手家電メーカーが手を引いたあたりで流れは変わったと思いますよ。
 完全に定着していることだけを問題にするのなら、星占いや姓名判断だって、マイナスイオン程度には完全に定着してますね。
 代替わりした高額商品って、売れなくなったから胴元が利益確保のためマルチ商法で売りつけるからぼったくり価格になってるってオチじゃないの?


by ウッちょん at 2008-11-41 07:37:41
「ぐうたら戦略」良いと思います、が。

はじめまして、ウッちょんと申します。

 「○○ダイエット」のようにマスメディアを通じて派手に登場するヤツには「ぐうたら戦略」は有効だと思いますが、水商売系や代替医療系などの比較的地味に浸透してくる類のものに対しては、単独の戦略としては厳しいでしょうね。特に「体験談商法」なんかには弱そうです。
 やはり、科学の専門的な部分は自分で判断できないにしても、情報源の信頼性くらいは考えられるようにならねばならない、ということでしょうね。


by apj at 2008-11-19 10:25:19
フローチャートの適用の方が確かなんですけどね……

ウッちょんさん、
 はじめまして。
 坪野さんという方が出された、健康情報を評価するフローチャートというのがあります。
 ここ
http://www.cml-office.org/archive/1225067022160.html
で引用しています。
 体験談のみというのは、ステップ1しか満たしていませんから、却下することになります。
 健康法・健康食品関連は大抵このチャートの適用で何とかなると思うのですが、あとはどれだけ厳しく宣伝文句を読めるかですよねぇ。「偉い人が勧めてるから、きっと試験は終わっているのだろう」などと勝手に補完したらもうアウトなわけで。


by ウッちょん at 2008-11-09 17:07:09
「ググれ!」

  おぉ♪ これは良いものを教えて頂きました。ありがとうございます。
 ステップ2以降は、1次情報、もしくはその適切な解説を見つけ出すことが重要なんですね。「ググる」ことになれている人間なら、多くの場合はそれほど苦労せずにできるような気がします。


by apj at 2008-11-41 21:04:41
安全側に振る、というのが大事

 消費者は慌てなくても損をしないし、効果が絶対に必要な場合(病気の治療に使う医薬品など)は、ちゃんと医者が処方してくれるのだから、

 情報が足りなければそのステップはクリアしていないとみなす

という、判断を安全側に振った対応をする方がいいですよね。実はそのステップをクリアしているのにまだだと誤認したとしても、医者が処方するようなところまで進んでいれば、消費者の誤認に関係なく研究成果の恩恵を受けられるし、そうでないなら、間違って厳しい方に判断しても、さほどの損はしませんから。