EM菌:experimentなきdemonstration

 macroscopeさんのところをを読んで。
有用微生物は活用すべきだが、比嘉ブランドのEMは勧められない
「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題
「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題 (2)
「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題 (3)

 科学教育の問題について、以前から気になっていることがあります。教育用のために作られた実験と、まだ未知のことがらを確定させるための実験とは違うということです。
 理科教育のために行われる実験はdemonstrationつまり演示実験であり、既に確定した自然現象を教育のために見せやすくしたものです。一方、まだ不確かなことを確定させるための実験は、主に大学以上で学ぶもので、experimentといいます。理科教材として準備されたdemonstrationには、experimentの裏付けが十分にあります。これは無理からぬことでもあります。小中高の理科でexperimentを経験することは、予備知識とかけられる時間を考えた場合、非現実的です。ただ、demonstrationを生徒の前でやっていい条件は、experimentが終わっていて、説明が確定している自然現象に限られているということです。
 EM菌を環境教育に使うことの問題は、experimentが十分ではない、つまり、その菌を使って河川の浄化などを行った時に、本当に効果があるのか、効果があるとしたらどんな条件が必要なのかということを十分確かめないままに、demonstrationと区別がつかないやり方で学校に持ち込まれているということです。
 菌を使って河川の浄化を試みるなら、菌を投げ込んだ→川がきれいになった、だけを見るのは不十分です。撒いた菌がその後どうなったか、その場所で生きて活動しているのかということくらいは調べてからでないと、菌の効果だという結論は出せないでしょう。
 EM菌の提唱者である比嘉氏は、効果について「波動」(オカルトです)や重力波(こちらは専門家がこれから検出するための装置の準備をしていますが、菌と関係するとはとても考えられないものです)といった、科学としてはまともでない説明をしています。EM菌を無批判に使うと、こういったまともでない説明を肯定していると受け取られても仕方がありません。どうしてもEM菌を使いたいのなら、こういったインチキな説明を正面から批判した上で、かつ、実験で十分に確認された菌の作用を利用するという形でしか、学校に持ち込んではいけないでしょう。しかし、批判を行ってから実践したという話も出てきません。この批判を教師がしてくれれば、別の意味で教育効果が高いと思うのですが、残念ながらEM菌を使っての実践は良い面だけ強調してやっているのではないかと思われます。
 EM菌で環境浄化の実践例では、菌を撒いた後その菌がそこに居るかについてはスルーされています。率先して持ち込んだ教師がその後菌の生存を確認するところまでやったという話は出てきていません。提唱者の比嘉氏は、確認のための実験には許可が必要だと主張し、検証を拒否しています。これを教育の場で使うということは、科学は誰でも検証できるという条件でしか進まないものだという、科学の教育にとって決定的に重要なことを無視するという教育効果をもたらしかねません。
 教わっている生徒は、demonstrationしか経験していないでしょうから、EM菌のdemonstrationを見て、普段教わっている理科の実験と質的な区別が出来なかったとしても仕方がありません。しかし、教える教師の側が区別できないのはまずいです。自分が何を教えているかわかっていないということになるからです。

 EM菌を学校で使ってはいけません。理科教育の重要な内容を否定する結果になります。