チンダル現象が起きなくても光散乱は起きます

 ふと気になって、数研出版の「最新版視覚でとらえるフォトサイエンス化学図録」(平成16年発行)のチンダル現象の解説ページを見てみた。

コロイド粒子は光を散乱させるので、コロイド溶液中を通る光の道筋が見える。一方、普通の溶液に含まれる分子やイオンは光を散乱させないので有色の溶液でもチンダル現象は起こらない。

 確かに私も高校生の頃、こう習った記憶がある。
 東京書籍の化学IIだと、チンダル現象のところに

水溶液では溶質の粒子が小さいので光を散乱しない。

と但し書きが。啓林館の化学IIでは、チンダル現象の写真として、デンプン水溶液、硫酸銅水溶液、水酸化鉄(III)コロイド水溶液、水の入ったビーカーを並べて赤色レーザー光を当てた時の光の通路の写真を掲載している。水と硫酸銅水溶液では光が通っているのが見えない写真になっている。

 これでは、私のところで測定している水のラマン散乱は、はたまた夢か幻か……ということになってしまう。
 実際、研究室配属になった4年生に「チンダル現象でなくても液体があるだけで散乱は起きる」とわざわざ教えなければならないのは、高校でチンダル現象の写真をすり込まれてきているからだろう。

 論より証拠で、コロイドの入ってない液体にレーザー光を当てるとこうなる。

Flowcell

 レーザー光は写真左から入射していて、写真奥の方が集光レンズである。セルの中には横にまっすぐ光の経路(パス)が通っているのがわかる。パスが見えるということは、光の散乱が起きて、散乱された光が目に届いているということである。
 写真の光学セルの中身は、0.2ミクロンのフィルターを通した純エタノール。水でも他の有機溶媒でも大体似たような感じで、物質によってパスの明るさが違う。水はアルコールよりも暗く、ベンゼンはアルコールよりも明るい。
 パスを見せている散乱は、レイリー・ブリルアン・ラマン散乱であって、チンダル現象ではない。この散乱は3つ合わせてもチンダル現象よりずっと弱い。しかし、教科書の写真にあるように、光のパスが全く見えないというわけではない。

 低分子の液体だけでも光の散乱は起きるんですよ!!