パーソナルツール
現在位置: 水商売ウォッチング / 磁気処理水 / 日本システム企画株式会社がすごい特許を出願していた(拒絶査定済)(2022/11/08)
ナビゲーション
 

日本システム企画株式会社がすごい特許を出願していた(拒絶査定済)(2022/11/08)

問題の特許は,出願番号「特願2016-099444」,公開番号「特開2017-207353」で,こちらから見ることができる

【0013】の図の説明「【図2】図2は本実施例に係るトリチウム水を含む汚染水の処理装置における流体活性化装置を示し、(a)は拡大平面図であり、(b)は(a)のA−A線断面図である。【図3】図3は図2に示す電磁波収束体を示し、(a)は拡大正面図であり、(b)は拡大平面図である。」で表示される図は,NMRパイプテクターの特許に出てくる図そのもので,「流体活性化装置」と呼ばれている。こいつがどういう役割をするかというのは【0009】に書かれており,「前記汚染水に対する電磁作用により普通水の水素核のみを共鳴させて前記トリチウム水と普通水とに蒸発温度差を生じさせる流体活性化装置と、前記流体活性化装置から送水される蒸発温度差が生じた前記トリチウム水と普通水に対する減圧蒸留処理を行い普通水のみ蒸発させて分離し、」とある。

つまり,日本システム企画株式会社の設定では,「流体活性化装置(=NMRパイプテクター)」をトリチウムを含んだ水が通ると,トリチウム水と軽水の蒸発温度差が生じるので,減圧蒸留すると分離できるというもので,減圧蒸留して得られるのが軽水だということらしい。もちろんこんな自然現象は起きないし,軽水にもトリチウム水にもそんな性質は無い。

当然のことながら,拒絶査定された。その理由通知書は,これまで本サイトでパイプテクターにツッコミを入れてきた内容と大体同じであった。

この「流体活性化装置」について、その原理が不明である点、発明の詳細な説明に示された実験結果が発明の効果を十分に裏付けていない点、及び、装置の詳細な構成が不明である点により、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が請求項1に係る発明を実施できるとは認められない。

と,ばっさり。理由の詳しい説明も,

黒体放射焼結体がいかなる波長の電磁波をどの程度の強度で放射しているのか不明である。また、複数の磁石により電磁波の波長又は位相が揃うという物理現象の原理が不明であり、このような現象は一般的には生じないものと考えられる。また、電磁波の波長と位相は異なる物理量であり、上記記載が電磁波の波長が揃うことを説明しているのか位相が揃うことを説明しているのか不明である。また、波長又は位相が揃うことにより電磁波がパイプを透過するという現象の原理が不明であり、このような現象は一般的には生じないものと考えらえる。

錆取りの原理の説明になってないぞ,とこれまでに指摘してきたことが,そのまま書かれている。

パイプ内の水に電磁波が到達するものと仮定しても、普通水の水素核(水素原子の原子核を指すものと審査官は解釈した)が電磁波により共鳴するという物理現象がいかなるものであるのか不明である。また、普通水の水素原子の原子核のみに共鳴が発生し、トリチウム水のトリチウム原子の原子核には共鳴が発生しないという現象についても、その原理を把握することができない。このような現象は一般的には生じないものと考えられる。

特許の審査は,あからさまな永久機関を申請したら拒絶されるが,多少の自然科学についての記述の誤りがあってもそうそう拒絶はされない。たとえば,「水のクラスター」を小さくすると称する水処理装置の特許は多数あり,自然科学としては間違っているが,そのことを理由に拒絶はされていない。出願者の脳内自然科学に踏み込んで拒絶というのはなかなかのものではなかろうか。

このままではダメだと思ったのか,日本システム企画株式会社は手続補正書を提出した。装置の説明は次のように改訂された(類似の改訂箇所が多く出てくるので最初の部分のみ引用する)。

黒体放射焼結体と、前記黒体放射焼結体より放射される電磁波を一定の波長に収束させつつ通過させる磁石を用いた電磁波収束体と、を具備する液体活性体と、前記黒体放射焼結体を外側、電磁波収束体を内側とし、電磁波収束体の内側に前記電磁波による液体の活性化領域を形成するように一体化させた組立体と、を具備する流体活性化装置と、トリチウム水と普通水とが混合している汚染水を流通させつつ前記液体の活性化領域を通過させつつ前記汚染水のうち普通水に対する前記流体活性化装置における電磁波収束体、組立体による電磁波のみの電磁作用によりこの普通水の水素核のみを共鳴させて前記トリチウム水と普通水とに蒸発温度差を生じさせるように構成した送水パイプと、

拒絶理由の,放射している電磁波の波長と強度はどないなっとんねん,という疑問にも,共鳴とは何がどうなることなのかわからんやんけ,という指摘に対する答えは書かれていない。

そのかわり,2019/09/18提出の意見書で反論が述べられた。P5以降にいろいろと書かれている。そちらにはようやっと数値が出てきているのでいろいろと味わい深い。

水素核の共鳴の大きさは、同じ磁束密度及び共鳴を起こす電磁波が同じであれば、水素核の精密質量の反比例の2乗の値になること、すなわち、普通水の水素核の精密質量は1.00に対し、トリチウム水の水素核の精密質量は3.016となることが知られており、普通水の水素核の共鳴量に対し、トリチウム水の水素核の共鳴量はその1/3の2乗の1/9とほぼ共鳴は起きていないレベルとなります。
両者の中性子数の違いにより普通水のみ水素核の共鳴が発生し

と書いてあるので,日本システム企画株式会社としては,核の共鳴(核スピンの共鳴のつもり?)に核の質量が2乗分の1で影響する,という認識でいるらしい。

正解は,磁気共鳴の共鳴周波数は磁気回転比と外部磁場の強さの積に比例,磁気回転比は核のg因子(核固有の量)に比例し核の質量に反比例する(これ以外に角運動量をループ電流に換算したときの電荷が入る)。質量の2乗に反比例するという項はどこにも登場しない。なお,核の質量もg因子も核固有の量なので,別々に扱わず,全部込みにした磁気回転比として扱うことが多い

古典的な球の回転のイメージしか持ってないのかと思ったが、剛体球の回転エネルギーは慣性モーメント×角速度の2乗に比例し、球の慣性モーメントは質量×半径の2乗に比例するから、共鳴によって(剛体球と思い込んでるに違いない)核の回転の運動エネルギーが変わると思い込んだとして、半径の2乗が出てくるならまだわからんでもないが、質量の2乗が出てくるのは全く謎である。

発生している電磁波の波長については

黒体放射焼結体から発生している電磁波の波長は、1~3×1015ヘルツで、電界強度は0.1~10μv/mとなるように設定します。

と回答している。波長を訊かれて振動数で答えるというのもどうかと思うが,光速度一定と思うとまあ許容範囲ではある。波長λを求めるには高校物理の波の式で足り,ざっくり光速度c=3×108m/sとし,振動数は真ん中あたりのf=2×1015Hzでとりあえず代表させることにし,c=fλの式より,λ=c/f=1.5×10-7m=150×10-9mとなる。150nmである。可視光ですらなく,紫外線である。なお磁気共鳴の共鳴周波数は,外部磁場にもよるが,超伝導電磁石を使った場合は数百MHzで,マイクロ波のあたりである。振動数で考えても波長で考えても,共鳴条件とは6〜7桁違う。これまで,パイプテクターの原理に突っ込むと,「黒体輻射ガー」な説明が返ってくることが多かったのだが,黒体輻射の波長とも桁が違っている。第一、紫外線発生のためのエネルギーは一体どこからきたのだろうか。

 これ以外にも,文献として「防錆管理」に記載した自社製作の記事を示したのだが,そこには自由電子レーザーに関する記述があった。パイプテクター売り込みの宣伝にも,ツッコミを入れていくと,自由電子レーザーやSDI計画を宣伝資料として出してきたことがある。2005年の記事なので,どうやらこの頃に,永久磁石を固めただけの装置の説明に自由電子レーザーを持ち出すというのを思いついた人が居たらしい。

結局,「電磁波の波長又は位相が揃うことで電磁波がパイプを透過するという原理は依然として不明」「自由電子レーザーの技術と本願発明の技術がどのように関係しているのか対応関係を把握することができない」「電磁波により普通水の水素原子が共鳴し、トリチウム水の水素原子が共鳴しないとする現象についても、依然として原理が不明である。原子の種類により共鳴の有無が決まる場合には原子の共鳴周波数、共鳴のために利用される電磁波の周波数、及び、共鳴現象が発生する周辺環境(温度や磁場など)といった事項が特定されるものと考えられるが、そのような事項は記載されていない」といった指摘とともに,拒絶査定されている。当然だろう。

この会社が持ち出す数値は,具体的な実験事実にも基づいておらず,社内には学部レベルの物理や化学の教科書を理解できる人材も居ない様子である。具体的な数値を求めると,出てくる数値は,誰かの適当な思いつきで出したとしか思えないものになっている。

今回は,社会的に関心を集めているトリチウムの分離ネタだったので,おかしな特許を通してしまって商売されると影響が大きいことから,審査官がきっちりチェックして拒絶査定にしたのだろう。

 今回、特許庁は、(トリチウムの分離が不可能というだけではなく)、会社が主張した分離を可能にする現象に対して、そもそも起きる根拠がないとして全否定した。特許庁が否定した内容は、パイプテクターの配管の錆取りの原理とほぼ同じものである。この特許の拒絶査定は、これまで錆取りの原理の説明として主張していることが自然現象として起きない、と、特許庁がお墨付きを与えたようなものである。このようなものを、自治体が税金を使って購入するのは大変にまずいだろう。自治体でなくても、公共性の高い機関(日本赤十字など)がデタラメを見抜けず買ってしまうというのは良くない。今からでも遅くないから、売り込みに関与した人の責任を追及することが必要だろう(日本赤十字の場合は三根さんという方が積極的に入れていたようだが……)。