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有限会社ティーアールアイへのコメント(2009/05/01)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 クラスター水XYZ(サイズ)を扱っている。

 「はじめに」に書かれている、ヒトの体の何%が水か、という値が、70%では成人にとって大きすぎる。

 「水」で、湧き水はそのまま利用するとあるが、必ずしもそうとはいえない。日本ではミネラルウォーターの製造時に加熱滅菌することが認められているので、大手はほとんど滅菌しているはずである(輸入品で滅菌していないものがあったりする)。井戸水を使う簡易水道の場合でも、滅菌しているところはたくさんある。

 「クラスターとは」は次のようになっている。

 水は水素原子(H)2個と酸素原子(O)1個からなる(H2O)水分子で構成されています。水分子は1個ずつ単独で存在しているように思われるが、実際の水分子は互いに手をつなぎ合って集団になっており、この固まり合った集団を「クラスター」(ぶどうの房の意味)と呼んでいる。液体状の水は水分子同士が互いに水素結合やファンデルワーカスなどの弱い力で結合して分子集団を作り、10の12乗分の1秒(1ピコ秒)という短時間で運動(揺らぎ)していると考えられている。また、一般に水道水をはじめ自然界にあるほとんどの水は、クラスターを形成している。

 この記述は部分的に正しい。分子集団を作っているのは確かだが、「クラスター」と呼ぶと、どうしてもかたまりのイメージが出来てしまう。実際には、もっと拡がった3次元のネットワーク構造である。
 「従来技術」には、次のようにある。

 近年、水の分子クラスターが小さい、いわゆるクラスター水を飲用すると、人体の代謝機能が改善されることが知られてきており、クラスターを小さくする手段が各種開発されてきている。このようなクラスター水としては、例えば、高周波還元水、磁気処理水、電子水、酸性アルカリ性電解水等があり、これらはいずれも電気や磁気エネルギーを用いて水分子を振動させて、この振動により水分子のクラスターを下げるようにしている。
 これら従来のクラスターを下げる手段においては、確かに、水の分子クラスターを下げる効果はあるが、人体にとって代謝機能を高めるためには、水が人体に取込まれた場合に、比熱容量や熱伝導率を高めることが重要であり、従来のクラスター水では、このような効果はまったく考慮されていないという問題を有している。

 まず、分子クラスターの小さい水など存在しない。水分子間の水素結合の状態は、温度・圧力・体積(PVT)にのみ依存する。この部分の記述は、前提から間違っている。次の、「高周波還元水」「電子水」は、水処理の原理からしてが意味不明である。「電気や磁気エネルギーを用いて水分子を振動させて、この振動により水分子のクラスターを下げる」は、現在の水についての知見からすると、空想以上のものではない。水の比熱容量や熱伝導率も、PVTに依存するだけで、何らかの方法によって変えることはできない。さらに、人体に入った水は、人体が持っている電解質が混じるので、もはや水ではなく水溶液である。

 なお、代謝機能を勝手に変えられたら人体にとっては大問題である。体の方は体の都合で代謝を行っている。

改水技術により水自体の特性を変更し、日本で初めて分子構造(クラスター)が小さいことを立証した水。「水の処理方法」日本国特許登録 第3558783号
(中略)
 水の中に遠赤外線放射率の極めて高いセラミックを水の重量に対して10%以上の重量比となるように浸漬し、第1種アースが接続された電極を入れ、この状態で一定時間放置する事を特徴とする水の処理方法。

 まず、特許が取得できたからといって、内容が科学的に正しいわけではない。特許を見ると、遠赤外線を放射するセラミックスに触れさせることで水クラスターを変えると称しているようだが、遠赤外線を水に照射したとしても、水の温度が上がるだけである。第一、セラミックスをそのまま水に入れたのでは、水の熱容量が大きいために、水とセラミックスは速やかに同じ温度になり、セラミックスから一方的に遠赤外線を放射する状態にはならない。水との温度差が見込めない遠赤外線源は、全く意味がない。

 ただし、この方法で水を作ると、セラミックスの成分が水に溶け出し、水の中の不純物濃度と組成を変化させる可能性はある。だから、不純物組成を正確に押さえてからでないと、何か変化があったとしても、水の物理的変化と結びつけることはできない。また、不純物の効果で水の味が多少かわるということもあるかもしれない。

 特許を見た限り、クラスターが小さいことの根拠は、ヒーターで加熱したときにどれだけ温度が上がったか、というものでしかなく、とても、クラスター云々と結びつけることができる実験ではない。もし、本当にクラスターの小さい水があれば、100℃で沸騰し0℃で凍ることなど有り得ない。目立って融点と沸点が低下するはずである。温度上昇率よりも、融点と沸点を精密に測定すべきだろう。

 過酸化脂質の減少率は、特許によると、光学セルに乳濁した脂質を入れて、光の透過率を測定することで評価している。過酸化脂質が分解すると過酸化脂質の透明度が上がるので、光の透過率が上がったことを脂質分解の根拠にしている。しかし、不均一な系を測定しているので、脂質がセルの一部にかたよった場合でも、液体の透明度は上がってくることが考えられる。分解されたあとの生成物の量を測定するなど、他の方法でも確認しないと何とも言えない。

 活性酸素の減少率の測定は、特許によると、ヨウ素デンプン反応の紫色が減ることから評価している。しかし、ヨウ素滴定法の原理を考慮すると、I2とI-の平衡によって決まるのであるから、水の中に、平衡をずらすような不純物が入っていたら、呈色の状態が違ってくることが予想される。この水は、セラミックスに触れさせることで、既に、水以外の不純物が入っていることが十分に考えられるのであるから、不純物組成について何ら検討することなしに、呈色反応のみを理由として活性酸素の減少と結びつけるのは間違っている。なお、活性酸素を測定したいのなら、ESRのスピントラッピング法などが既に知られている方法である。なぜそちらを使って評価しないのかが疑問である。

 最大酸素摂取量は、ヒトに対する結果である。12例あるが、どういう測定をして出てきた値かがはっきりしない。このページによると、最大酸素摂取量の測定は困難なので、最高酸素摂取量を使うことが多いらしい。生活習慣や運動の習慣の変化がどうであったかに全く触れられていないので、実験結果を信用していいかどうかが疑問である。トレーニングで変わってくるはずだが、2ヶ月の間、被験者はどのようにして過ごしていたのだろうか。
 さらに、水を飲ませた条件も不明である上に、対照群もないのでは、著しく精度の低い実験と言わざるを得ない。

 「結論」には、

 XYZ(サイズ)は、クラスターが小さく、遠赤外線効果を有するので、遠赤外線の放射が加わった場合、水の振動数が遠赤外線の波長の振動に変化されていることから、水分子が共振することとなり、遠赤外線を効率よく吸収して熱に変換しやすい状態となる。その結果、比熱容量や熱伝導率も向上し、人体に取込まれた場合に吸収されやすく、代謝機能を高め しかも、あらゆる液体に対して適用することができる等の効果を奏する。

 とあるが、出発点から間違っている上に、行われた実験とその結果からこの結論は導けない。

  なお、掲示板の[27011]には、mimonさんによる、

>(11)【特許番号】特許第3558783号(P3558783)

>【0034】
>これは、周囲に断熱材を巻付けたビーカに500ccの水を入れ、このビーカを出力500Wの電熱ヒータ上に載置して2分間加熱した後、0.1℃の分解能を有する半導体温度計により、ビーカ内の水の水面下3mm位置における温度を測定したものである。この測定を、本発明の水と水道水についてそれぞれ10回ずつ行なった。なお、測定前に、本発明の水および水道水のいずれも室温に放置し、測定開始温度を27℃±0.3℃として測定を行なった。この測定結果を表1に示す。
>【0035】
(表は引用が難しいので中略)
>この実験結果によれば、水道水では、平均62.23℃に水温が上昇したのに対し、本発明の水では、平均69.64℃まで水温が上昇し、約7.41℃の温度上昇差が確認された。

もし、この温度上昇がビーカ内の水の平均値だと仮定すると、その効率ηは、水道水の場合、
η=(0.5*(62.23-27)*4.18605)/(0.5*2*60)=1.23
となりまして、効率が100%を超えてはいけませんね。
どこが間違っているかというと、自然対流している加熱中のお湯の温度を一点だけの測温で代表させていることがいけないのです。
ビーカのような透明な容器のほうがわかりやすいのですが、気をつけて見れば、金属製鍋でも観察できますのは、
下から加熱している水は、肉眼ではモヤモヤと見える、高温水が、不定期に立ち上る非定常・非線形な状態なのです。
そんな物に温度センサを一点だけ入れても、非常に不安定な値しか示しませんから、
その値を読む人の恣意によって、5℃や10℃くらい、どうにでもなります。
水の熱伝導率を精度よく求める方法は、いくらでもありますのに、わざわざ容器に入れたお湯を沸かすのは、こういうゴマカシがきくからなのです。

もちろん、小数点以下まで表示を求められる、「工業製品」の効率測定は、こんないい加減な事ではいけませんから、
例えば、JIS S2103「家庭用ガス調理機器」などにありますように、
攪拌しながら加熱を止め、定常状態になったときの温度から求めています。
それでも、小数点以下までの精度は無理ですので、批判の対象になっています。

水の物性を変えた事の実証に、精度の得られにくい「お湯を沸かす」ことを選んだ時点でダメですし、
その測定方法は、せめてJIS規格に準じた物でなければ、「論外」です。

 という指摘も出ている。

 特許中にあるセラミックスからの赤外線放射は、測定温度が明らかではない。ミクロンサイズの多孔質材料からの赤外線輻射の測定は私も手がけたことがあるが、温度によって輻射の強度もスペクトルの形も全く異なる。実際の使用温度で、標準黒体と材料の両方を測定して評価しなければ意味がない。にもかかわらず、何度で測定した値かもはっきりしない。また、通常は、標準黒体の何%の輻射があるかを評価することになり、波長によって値が違ってくるはずだが、4〜1000μmの範囲をたった1つの値で代表させている。これが本当ならば、標準黒体に極めて近いが標準黒体には及ばない材料を開発したに過ぎない。
 ところで、波長1000μmということは、f=c/λ=2.99e8 (m/s) / 1e-3(m) = 2.99e11 Hz、同様にc/λ=2.99e8 (m/s)/4e-6(m) = 7.5e13 Hz。ミリ波からサブミリ波、THz領域って、検出が難しいので最近までなかなか実験が進まなかったところなんだけど、平気で測定しているようで。水よりも、この波長範囲を簡単に感度良く測定できる方法を持っている事の方がよっぽどすごいわけだが、私はきいたことがないな。

 この特許及び宣伝は、しなければならない測定をせず、ゴマカシのきく測定だけを選んで行い、しかも測定条件が曖昧なままなので追試もそのままではできず、測定結果と結論の間の関係は全くはっきりしないということになる。

 学生に実験させて、もし、この特許のようなレポートが出てきたら、間違いなく再提出させるか、成績評価を不可とすることになるだろう。

 なお、ただの水であって薬剤ではないので、効果効能を謳って宣伝すれば、それだけで違法である。

 この水への批判として、pseudo-sciさんのエントリーがある。ただ、この批判にも一部間違いがある。
 浄水器の記述そのものは、もともとが一般論なので大した突っ込み所ではない。「万有引力を基にする結合力のことは、ファンデルワールス 力」は明らかに間違い。ファンデルワールス力は、分子の電荷分布が瞬間的に歪むことによって生じる電気双極子モーメントが原因となる分子間相互作用なので、静電的な力である。「純粋な水の場合にはクラスター構造を持つことが知られていますが」とあるが、実際にはネットワーク構造で、クラスターを定義するのは困難だろう。

 

 

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