Feed

いつからなのか?

Posted on 8月 15th, 2006 in 倉庫 by apj

 二日連続他所のブログからネタを拾うことになったが、何だか符号するものを見つけてしまったのでメモしておく。酔うぞさんとこで出ていた記事「シンドラーエレベータ・自治体困惑と言うが」で、

そもそも入札制度は、一番安く納品できる業者を探すという意味でありましょう。
ということは買い手である自治体などが品定めできる能力を要求されているという事ですよ。
しかし、今や高度になったシステムなどを自治体などが独力で判定できる能力はないわけですよ。
原告規模で屎尿処理設備の談合事件で、11社が起訴されましたが屎尿処理施設の最新システムを自治体の職員には判断できる知識が無いことは容易に想像できますが、それでは自治体は判断できないから外部のコンサルタント会社にその自治体に適当なシステムの構想を作ってもらうわけです。
ところが、11社が起訴された事件ではその企画を作ったコンサルタント会社を取り込んでいたというのですから、自治体だけが蚊帳の外という事になります。

これでは入札自体が成立しないわけですよ。
値段だけを見れば悪くても安いものを買わざる得ない、内容はさっぱり判らない。
一体どうやって入札を成立させるのでしょうか?基本的に入札制度自体が無理に近いんじゃないでしょうかねぇ?

 とある。その一方で、フラスコさんところからたどって行き着いたのが「役人学三則」。岩波新書だそうだが、元ネタは法学者の末弘巌太郎(1888―1951)が書いたものだから、だいぶ昔の話である。で、この内容が、酔うぞさんの指摘を裏付けるような代物だった。

、第一条 およそ役人たらんとするものは、万事につきなるべく広くかつ浅き理解を得ることに努むべく、狭隘なる特殊な事柄に特別の興味をいだきてこれに注意を集中するがごときことなきを要す。

君ら若い方々はとかく理想にとらわれて一生をある種の事柄に力を集中してその道の専門的達人になりたい、というふうに考えがちであるが、君がもしも役人として出世を希望するのであるとすれば、かくのごとき態度は根本的に間違っている。現在の官制および官吏任用の実際は、ある種の行政事務に特別の興味を有し、したがって特種の知識技能を有する役人が一生をその事務にささげつつ適当に出世しうるようにできていない。
(中略)
だから特殊の事務に興味を感じてそのほうの専門家になると、自然ほかに融通がきかないため、なかなか出世できない。そうしてほかから人繰りの関係上どんどん専門の知識なき役人が上役として転任してくる。だから出世という妄念をたちきってお寺にでも入った気でなければ、特殊行政の専門家になることはできないのである。
(後略)

 などと指摘されていたりする。もちろん、末広教授は、このような風潮を望ましくないとして痛烈な皮肉をこめて書いている。ただ、50年も前から役人側が末広教授の指摘の通りだったのだとすると、酔うぞさんが書いている「入札が成立しない状況」は、表面化しなかっただけで、実はずっと前からあったのではないか。「特殊行政の専門家」であれば、守備範囲の入札の内容を判断できるかもしれないが、そうならないことが出世の道であれば、自然と判断出来る人は居なくなるわけで。
 そういえば、水関連でも似たようなのがあった。相談された事例なので固有名詞を出せないが、市営プールに怪しげ活水セラミック装置がぼったくり価格で入ったのを追求していたケースで、入れた役人の判断の主な根拠が、製品の説明を読んで理解したというのではなく「他所の自治体に導入実績がある」だったというのが。
 談合がいいとは思わないが、談合で上乗せされたコストと、入札で決めたときに品質を判断し保証するためのコストについて、どこかで評価は出ているのだろうか。


ここからは旧ブログのコメントです。


by 水崎@造園屋 at 2006-08-53 10:21:53
Re:いつからなのか?

先日、某県の某施設の調理場で使う金ダワシを、1個、電子入札で入札させたそうです。
応札する業者が一つもなく不落に終わったようですが、そもそも入札して買おうという発想が一般常識外です。
自分の財布からお金を出して買っても、別に不具合無いと思いますが。


by 酔うぞ at 2006-08-37 11:47:37
Re:いつからなのか?

>調理場で使う金ダワシを、1個、電子入札で入札

すげ~・・・・・・どう考えてもコスト割れだ。


by ずれてる人 at 2006-08-43 15:47:43
Re:いつからなのか?

コピー用紙2箱×10ブランド程度、入札に掛けてもらおうか真剣に悩んだ。
(ブランドのバリエーションの知識が萎えてくるのよorz)


by hdk at 2006-08-31 23:58:31
Re:いつからなのか?

>調理場で使う金ダワシを、1個、電子入札で入札
金額の大きさといい、おそらく消耗品であることから考えても随意に購入してもなんの問題もないのでは?
個人情報保護法のように、導入からしばらくの間は針が振り切れた対応をとるのでしょうか?
金ダワシに備品シールとか貼ってたりして…


by と at 2006-08-33 00:42:33
Re:いつからなのか?

確かに大学でも一回針振り切れましたねえ。発注は原則として会計を通すこと、を真面目にやった挙句事務がパンク(^^;

上からの通達が来たとたん予測やら常識やらがすっ飛んでしまい、パンクという前例ができるまで手をこまねいているというのがなんとも・・・

金ダワシとか日用品は買いにくいものでしたが、最近は大学生協などへの発注がすんなり通るようになったので楽になりました。


by apj at 2006-08-57 03:07:57
Re:いつからなのか?

 金ダワシって……。
この程度のものだと、大学なら生協を通して伝票回して買うとか、他の施設なら出入りの消耗品を扱ってる業者に頼んで買って、伝票処理するというのが普通じゃないかと。
 でも、ウチも学生実験用の寒剤の食塩5kg、大学となりのスーパーで買えば安いのに、現金が動かせないから出入りの試薬業者の方に頼んで買ってきてもらってるなぁ。その分割高になるけど仕方がない。

 とさん、
もっと情けないケースでは、発注は全部事務を通せ→事務省力化のためウェブで会計情報を回す処理システム導入→ペーパーレスになるはずが、事務がこれまで通り紙で残さないと安心できないという神経症にかかっていて、電子と紙で二重に情報処理→処理量倍増→Xデーまであと何日?、というのをきいたことが。


by hdk at 2006-08-14 03:58:14
Re:いつからなのか?

末弘巌太郎氏はその道の大家なのでしょうが、わたしは氏の見解にいささか疑問をおぼえます。
現実の国I採用の官僚を見ていて(まあサンプル数は数名ですので客観性皆無です)思うのは「猛烈なタコツボ主義者」だということです。一応、国Iの試験をクリアしているのだからそれなりのペーパーテスト的な常識は備えていそうに思うのですが、なかなか実際はそうではありません。配属された局、課でOJTを施されるためか、かかわる法律の区々たる条文についてはあきれるほど詳しいです。しかし、自分の所属している局、課がかかわっていない物事になるとヘタすりゃ高校の政治経済レベルの常識も備えてない連中がいます。
彼らが数年ごとに人事異動を繰り返して得られるキャリアは、無数のタコツボが互いに連絡することもなくボコボコと地面に掘られている–とでもいったような状態になるのではないかと推察します。

わたしは何も官僚がシンドラーエレベータが適切な設計によるものであるかを自ら判断できる能力をもつ必要はないと思います。必要なのは、「シンドラーエレベータが適切な設計によるものあるかを判断できる人物(団体)」を見つけ出して、そちらに仕事を投げ、そのアウトプットを吸い上げる能力だと思います。キザないい方かもしれませんが、OSのカーネルとしての能力が官僚たちには求められるのでは?


by まいまい at 2006-08-24 05:19:24
Re:いつからなのか?

小さい政府を求めるなら、「シンドラーエレベータが適切な設計によるものあるかを判断できる人物(団体)」や「太陽企画が子供を排水口に吸い込ませない会社かどうかを判断できる人物(団体)」で思い当たるのは、ロイズのような外資系の保険引き受け組織ですね。

応札・業務の引き受けにあたっては保険をかけさせて、レートがどのくらいの設計・会社なのかを役人が査定すればいいことです。もちろん保険引き受け組織の再保険のレートも査定する。そうでないと、北朝鮮系の保険会社みたいな再保険の引受先もないような安い保険をかけて来る業者が出るでしょうから。

日本の保険会社はそういう賭けに馴れていないようですから、使い物にはならないでしょう。事前調査が甘く、いざと言うときの保険金支払いがいい加減なばかりか、不当に支払わないことが慣例化している。

ああ、これだと日本の行政を外国に判断させるシステムになりますね(笑)。


by Tama at 2006-08-31 20:41:31
Re:いつからなのか?

昔は(ええ、「昔は」です)、職人気質なるものが普通にありまして、業者は自分のやっている仕事に誇りを持っているのが当たり前ということもありました。今でもうちだと企業倫理活動なる名称で、要は「おてんとさんに顔向けできるような仕事をしようや」ってなことをやっていますが、企業体としての誇りを持てるようにすべしということだと理解しています。
それを理想とする心があるから、入札という制度も成り立つのでしょう。職人の誇りがあてにならん世の中になってきたからコンサルタント入れて審査しようって話になって、実はコンサルの誇りすら無かったと。
それで購入者側に広い知識を要求するというのは、世の中の流れとしては悪化の方向でしょうね。hdkさんも書いてらっしゃいますが、信頼できるコンサルを見つけるというところが肝要なのでしょうか。そういうコンサル(団体)の目があれば、業者も迂闊なことは出来ませんから自然に襟を正す方向に動くでしょうからね。


by apj at 2006-08-16 00:11:16
Re:いつからなのか?

>日本の行政を外国に判断させるシステム
 日本の行政がロイズによって判断されていれば、それなりに信じる気になるんですが……。

>信頼できるコンサルを見つける
 コンサルが真っ先に談合に取り込まれそうで不安なんですが。


by 通りすがり at 2006-08-04 22:58:04
Re:いつからなのか?

>日本の行政がロイズによって判断されていれば、それなりに信じる気になるんですが……。

ロイズって、大きな事件の度に無限責任の個人会員が破産しているところですよね?

所謂、紳士の博打場的な側面もあると思うけど、そこで判断されることに価値があるのだろうか?

民主主義、自由主義の歴史からすれば市場にまかせることで倫理的に正しい方向へ進むことは無いでしょう?


by apj at 2006-08-19 03:13:19
Re:いつからなのか?

>ロイズって、大きな事件の度に無限責任の個人会員が破産しているところですよね?
 談合に真っ先に取り込まれそうなコンサルと、失敗すれば財産を失う立場のばくち打ちのシビアな目のどっちを信じるか、という話では。もちろん、下手くそなばくち打ちも居るから、破産が起きるのでしょうけど。

>市場にまかせることで倫理的に正しい方向へ進むことは無い
 入札で安くするかわりに、安くしたことによって生じるリスクを保険のレートで評価するという話ですから、正しいコスト評価を目指すことになるのではないかと。倫理的かどうかはあまり関係ないのでは。評価に失敗すれば自分の財産を失う、という状態ならば真剣に評価するであろうことが期待される、ということです。


by TuH at 2006-08-43 12:06:43
Re:いつからなのか?

信頼できるコンサルタントもを雇うにも随意契約ではダメです。すると,信頼できるコンサルタントであるか否かを判断する能力が行政には求められ,できないのであれば信頼できるコンサルタントであることを判断できるコンサルタントを雇う必要があります…きりがない。


by apj at 2006-08-40 22:08:40
Re:いつからなのか?

結局のところ、判断するのにもコストがかかるということが理解されてない?


by Tama at 2006-08-37 22:17:37
Re:いつからなのか?

>コンサルが真っ先に談合に取り込まれそう

まあ、実際大元の事件はまさにそれだったわけですが。だからこそ「誇り」という書き方をしました。別に「そこまでして儲けたくはない」とか、もっと卑屈に「そんなことバレたら怖い」とかでも構わないんですが、要は「心のブレーキ」の問題にするしかないと思うんですよ。

だって、購入者側が専門知識持って判断するとしたって、その決断下す担当者が「山吹色のお菓子」に目を奪われたら結局同じことですから。
これくらいなら私も欲しいけどw >http://yamabukiiro.com/


by 通りすがり at 2006-08-54 04:45:54
Re:いつからなのか?

>失敗すれば財産を失う立場のばくち打ちのシビアな目のどっちを信じるか、という話では。

ロイズのことをどれくらい理解されているのでしょう?
ネームがシビア目を持っていないからこそ、成り立っていた業界だと思いますが・・・・

>入札で安くするかわりに、安くしたことによって生じるリスクを保険のレートで評価するという話ですから、正しいコスト評価

ですから、自由主義的には「保険のレートで評価する」ことが、「正しいコスト評価」になる必然性は無いということです。
「正しい」という意味をどう捉えるかという問題もありますが、
保険業界が利益を出すには「評価」をどうせれば良いか、考えれば分かりやすいと思います。

そして保険業界の「利益」が正当であることを証明するのはまた難しいでしょうね

ロイズの難問の一つがアメリカの環境訴訟、特に「アスベスト訴訟」であり、こいう問題をネームが予測し判断するのは不可能だと思いますが・・・・


by 通りすがり at 2006-08-47 04:56:47
Re:いつからなのか?

つけたしです

裏ノーベル賞の意味であるIG NOBEL PRIZESの紹介本の書評から http://d.hatena.ne.jp/asin/448404109X

悪行に対する皮肉系
ロイズのひどい経営
新規「ネーム」(無限責任を負う保険への出資者)を乱発し,ネームになった直後に自己破産手続きをさせる経営.さらに古株だけは保護する経営.


by apj at 2006-08-01 07:01:01
Re:いつからなのか?

 通りすがりさんがおっしゃるように、保険でもダメだとすると、一体どこにどういうコストをかけて判断することにすればいいのか……。「心のブレーキ」の問題にするというTamaさんのご意見はわかるのだけど、人間の素養というか性質に依存したシステムが必ずしも良くないから、そういうのに頼らなくてもいいようにしようとか、ブレーキのききの弱い人がたまたまそこにいても大丈夫なように制度を作ろう、といったことが必ず出てきそうに思うのだけど。


by Tama at 2006-08-23 02:46:23
Re:いつからなのか?

性質に依存するための制度が必要となると、懲罰をもって心のブレーキとするしかないのでしょうね。別に刑法じゃなくても社会的制裁というやつで構わないのですが。
今回の事件報道により、しばらくはおとなしくしようとする(バレたら怖い系のブレーキが働く)ことにはなると思います。しかしマスゴミも浮気性ですから、このブレーキが長くは効かない。民衆もすぐに忘れて社会的制裁が成り立たちにくい、そういう社会になっているのだと思います。

どうすりゃいいんでしょうね。長期的には教育問題ってことになるんでしょうけれど、即効性のある制度についてはどうも思いつきません。規制緩和が正義みたいな扱いの世の中でもありますしねぇ。