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「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

Posted on 3月 10th, 2009 in 倉庫 by apj

コメント欄に書いたのだが、まとめのためにエントリーを上げておく。現行法の範囲内で考える。

高校は義務教育ではなく、公立高校では授業料を受益者が一部負担するという制度で運営されている。
高校と(あるいは地方自治体と)の契約は、高校生本人だけでは無理で、法定代理人(親権者がなる)が必要。
授業料が不払いという事実があった。

【ケース1】
 親が、「高校なんかもう行かなくていい」あるいは「支払わないために除籍になってもいい」という考えの持ち主であるために授業料を払っていない場合。
 督促が嫌なら退学させるという手段を親はいつでも取ることができる。これを第三者が止めることはできない。
 授業料の督促の少額訴訟をされたところで、未払い分を払った後の支払拒否=退学、で終わる。さかのぼって退学ができれば、そうするだろう。とことん払わず、登学停止でもかまわず、そのうち行われるであろう除籍を待つ、という方針を親がとったとしても、結果は変わらない。
 道義的にはともかく、これを法的に止める手段はない。「ツケを回す」も何も、現行法では親にそうすることを許している。
 保護者と親が別人で、親権者に対抗して保護者が居るという状況なら可能だが、法的には親権者が反対している限り、親の反対を押し切って高校に進学することは法的には不可能である。親権者である親が別の例えば親戚の人を保護者と認めて、高校に進学するという形であれば、幾らでもあるが、親が保護者も認めないから法律で争ってというのは、親権の否定になる。現行法では、例えば家庭放棄だとか児童虐待といった刑事罰の対象になるような事実がない限り親権を否定することはできない。高校に行きたがる子どもを進学させないといっただけでは、刑事罰の対象にはならない。客観的に子供が親を許せないといった場合であっても、第三者が親権を取り上げることは出来ない。(酔うぞさんのコメントのまとめ)
 感情論では、高校に行きたがる子どもを行かせないというのは虐待にあたるという話になるかもしれないが、法的には刑事罰相当でないと虐待とは判断されない。

 現行法の範囲を超えて少し考察すると、部分的に親権を制限する制度を作れるか、という問題となる。
 このことについては、別エントリーのコメントの法匪さんの指摘の通りである。「教育に関わる自由を、親からの子供の自由だと把握して、親から取り上げてでも子供に公教育を課すことを教育の自由の保障だと考える」という立場を日本ではとっていないので、まずこの部分を変えることになる。そしてこの立場を取るのであれば、今度は「(近代法というものの建前上一人前の主体ではありえない)子供自身に対して公教育内容の公権的決定などを通じて国家介入が行われるという事態」を容認しなければならなくなる。後の方を受け入れないなら前の方を受け入れることはできない。
 すると、「親がアホのツケを子どもに回すな」が具体的に意味するところは、「親の親権を制限してでも子供に公教育を課す(このための国家権力の介入は認める)制度を作れ」という主張となる。

 介入とまではいかないが、もうちょっと子どもを援助しても良いのではないかという方針でいくならば、「親がアホのツケを子どもに回すな」は、「子供が高校に通うことを希望しているのに親が反対して金を出さない場合には、授業料の支払を免除せよ」という主張となる。

【ケース2】
 親が、経済的に支払は可能であるにもかかわらず、隙あらばズルをしたいという考え、あるいは単なるずぼらで授業料を払っておらず、しかし子どもに高校を卒業させたいと思っている場合。
 この場合は、少額訴訟までいけば払うことが予想されるし、強制執行しても問題はない。「登学停止」「除籍」を予告しての厳しい督促があったら払うかもしれない。「卒業証書を渡さないぞ」をくっつけた程度の督促で現実には支払われた(元の新聞記事の件はこのカテゴリーに属するものであったと推察できる)。
 すると、これらの督促手段をとった場合、「親がアホのツケが子どもに回」ったとして、子どもにとっての具体的な「ツケ」の内容とは、「プレッシャーをかけた請求が行われていることを子ども自身が知って、一時的に不安を感じたり嫌な思いをする」ということだけに止まる。この程度の不利益であれば「親がアホのツケを子どもに回すな」という理由で第三者が積極的に非難するほどのものではない。
 なお、子どもが「登学停止」「除籍」でもよいから払わない、と考えて、実際にそこに至らせる親はケース1として考えることになる。

【ケース3】
 経済的に困難で払えない場合。
 既に指摘があったように、現状では殆どが授業料免除の対象になっていると考えられる。公立高校での授業料免除の対象は10%程度になることもあり、相当に手当てがなされている。
 経済的理由で退学するケースが現実にはあるが、各家庭がそれぞれの事情のもとにその結論を出した場合、子どもの希望に添うものでなかったとしても「親のアホさに子を巻き込む」と第三者が非難するのは不適切だろう。

 このように考えると、私が当初賛成した手段「授業料を完納しないと卒業証書を渡さない」は、「親のアホさに子を巻き込む」ということを引き起こしていないし、引き起こしようもない。
 もちろん、「プレッシャーをかけた請求が行われていることを子ども自身が知って、一時的に不安を感じたり嫌な思いをする」だけでも、「親のアホさに子を巻き込」んだという判断をする人が居るかも知れないが、この部分の判断がそんなにはっきり決まるとは私には思えない。契約は守らないといけない、ということをプレッシャー付き督促を通して体験して知ることが、高校生くらいの年齢の子どもにとって、悪いことであるとは思えない。
 「親のアホさに子を巻き込む」ことが起きると考えて私を批判している人達は、多分幻を批判している。

【追記】
 「親のアホさに子を巻き込む」という批判は、プレッシャー付き督促(所謂悪質な取り立てとはほど遠い程度)が行われていることを子供に知らせることの可否についての立場の違いの表明でしかない。
 そうではなくて、授業料が滞納されることによる具体的な被害の発生まで含めての議論だというのであれば、次の2つのうちいずれかの意味だと考えることになる。

 「親がアホのツケを子どもに回すな」というスローガンめいた主張を具体的な制度にまで落とし込むと、
(1)親の親権を制限してでも子供に公教育を課す(このための国家権力の介入は認める)制度を作れ
あるいは、
(2)子供が高校に通うことを希望しているのに親が反対して金を出さない場合には、授業料の支払を免除せよ
となる。
 「親がアホのツケを子どもに回すな」という理由で私の意見に対する反対意見を述べているつもりになっている人たちが、本当にしなければならないことは、(1)や(2)を実現するための論を立てるということである。主張している人達がそのことに気付いているかどうかは不明だが。
 (1)は、教育の強制に対する国家権力の介入を認めるか、つまり、各個人の教育の自由の侵害を認めるかという部分で合意されないかぎり、制度として作るのは無理だろう。教育の自由が欲しいと考えている人達の主張とは両立することがないからである。

【追記2009/03/12】
 酔うぞさん他のコメントにより、社会の側が親権を一部制限して教育を強制する、というのが即ち義務教育だと気付いたので追記。つまり、(1)を実現するとしたら、高校教育の義務教育化という考え方にいきつくことになる。

 (2)は、実行したらモラルハザードを引き起こし、受益者の部分負担で運営するという公立高校の制度そのものが崩壊する。この方針でいきたいなら、最初から公立高校の授業料は無料とし高校を義務教育にせよという主張をするしかない。

 スローガンは具体的な制度にまで落として考えないと、感情論になるだけで、議論の精度は上がりそうにない。

【追記】
 元の新聞記事は、「(滞納者に対して規則で定められている登学の停止や除籍の可能性を伝えて督促するのならかまわないし、払わなければ警告通りに実行してもよく、また少額訴訟による回収でも構わないが、規則にない)卒業証書を出さないという回収の仕方は(規則に無いため恣意的な)嫌がらせになるから不適切」と読むべきだということになる。つまり、校長は、主観的には規則や法に定められた内容よりも穏当な督促をしたつもりであったかもしれないが、客観的には嫌がらせになってしまう可能性があるということになる。

【追記】
 なお、法解釈の問題として、教育基本法や児童の権利に関する条約のような一般的条文から、校長が具体的にどのような行動をとるべきかという具体的行為規範を導けない。本件の校長の行為が規則違反であったとしても、それが教育基本法に違反するという解釈は、通常の法解釈の常識からは出てこない。この点についても、法匪さんの指摘に同意する。一般的条文がただちに具体的な請求の根拠になるという主張がトンデモ法解釈だという見解について、私も同意見である。

【さらに追記】
 昨今の景気の悪化で、貧困の広がるスピードが想定よりも早すぎるために援助が追いつかなくて授業料未納になるケースについては、援助の枠を増やすように行政に求めるという方法で解決する問題だろう。未納を現場の温情的措置で見逃した場合、その分は結局税金で補填することになるが、それは形を変えた補助である。現場で恣意的にこれをやると、今度は、補助の基準が一律ではなくなるという別の不公平が発生する。それならば、最初から、必要な人に援助が届くように基準を決めて対応する方が良い。払えないものを払えというのは無理だし、個人の努力では挽回できないほどの格差を放置するのはよろしくない。経済的事情に応じて教育費を援助するというのは、セイフティネットの一つの在り方だろう。


ここからは旧ブログのコメントです。


by 摂津国人 at 2009-03-52 23:13:52
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

apjさん
 ほぼ同意します。

>「プレッシャーをかけた請求が行われていることを子ども自身が知って、一時的に不安を感じたり嫌な思いをする」

 については元の報道自体を”法的根拠も薄く、効果も限定的な「嫌がらせ」を「学校側が行う」のは良くない”との判断があったと読むべきかもしれません。

(「ほぼ」の部分はPSJ渋谷研究所Xさんの所の”「親がアホ」のツケ 3”の2009年03月10日 09:00に書きました。)


by 摂津国人 at 2009-03-52 23:13:52
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

apjさん
 ほぼ同意します。

>「プレッシャーをかけた請求が行われていることを子ども自身が知って、一時的に不安を感じたり嫌な思いをする」

 については元の報道自体を”法的根拠も薄く、効果も限定的な「嫌がらせ」を「学校側が行う」のは良くない”との判断があったと読むべきかもしれません。

(「ほぼ」の部分はPSJ渋谷研究所Xさんの所の”「親がアホ」のツケ 3”の2009年03月10日 09:00に書きました。)


by 摂津国人 at 2009-03-14 23:16:14
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

 すみません二重投稿されたみたいなので一つは消してください。


by apj at 2009-03-53 00:16:53
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

摂津国人さん、
了解。1つ削除しました。


by Noom at 2009-03-19 01:44:19
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

議論になっているのは【ケース1】、正確には【ケース2】の延長線上の【ケース1】
現状は【ケース1】の場合に授業料を免除する手段は無い。
apjさんの主張は「【ケース1】の場合の授業料免除は必要ない」「今回の件は【ケース2】にとどまっているので問題ない」
批判している人たちの主張は「【ケース1】の場合も授業料免除は必要だ」「【ケース2】の延長線上には【ケース1】がある以上、今回の件の容認はできない」
ではどうするのか?>批判側のターン

って理解でいいですか?
親と子を一体としてとらえることに、親の教育権と子どもの学習権が矛盾おこし始めてる感じですね。

あと、高校教育の義務化は関係ないような。


by apj at 2009-03-53 02:20:53
ちょっとだけ違います

Noomさん、

 私の認識は
>現状は【ケース1】の場合に授業料を免除する手段は無い。
です。

>「【ケース1】の場合の授業料免除は必要ない」
とは主張していません。

 ただ、【ケース1】の授業料免除を実行した場合、誰でも免除を求めることが可能となり、結果的に授業料一部負担という制度そのものが成り立たなくなるだろうという予測をしています。親が「高校に行かせない」と主張するだけで授業料がタダになるということになりますので。

>「今回の件は【ケース2】にとどまっているので問題ない」
はそのように考えています。ただし、規則にない対応は恣意的な嫌がらせと解釈される可能性がありますので、取り立ての方法は規則の範囲でやらなければならないと思います。

>ではどうするのか?>批判側のターン
 【ケース2】の延長上の【ケース1】が問題だというのであれば、結局のところ「【ケース1】を救済するかどうか、救済するとして妥当な制度を作ることができるか」という問いを立てるしかないでしょう。
#法や規則を曲げてまで場当たり的に救済せよ、というのはナシで。

>親と子を一体としてとらえることに、親の教育権と子どもの学習権が矛盾おこし始めてる感じですね。

 正確には、親権というものを制限可能にしていいのかどうか、親の教育方針に国家権力(自治体ではないのは、立法府が国家だから)が介入することをどこまで認めるのか、という話になると思います。
 「とらえる」というのは主観的や情緒的にそう考える、というのではなくて、現行法がどう扱っているかということから導き出される内容となります。

>あと、高校教育の義務化は関係ないような。

 仰る通り、「義務化」ではなく「無償化」、ですね。エントリーの方を直しておきます。


by zorori at 2009-03-27 06:23:27
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

こうやってまとめてもらうとすっきりしますね。

それで、思い出しました。子供の教育とは大人の都合で行うものだと。子供は一人前じゃ無いから教育するんですね。もちろん、子供のために教育するのですが、どのような教育が良いかは大人が決めるもので子供ではない。寺子屋の時代から、明治以降の軍隊式教育まで、大人社会の要請に合う人間を作るために教育は行われたわけでした。少なくとも義務教育までは子供が嫌だと言っても強制的に教育させられます。だからこそ子供は保護もされる訳でした。

ですから、馬鹿親のツケを子供に回すなと言う場合には、馬鹿親の教育観を駄目だと誰が判断するのかという問題が出てきます。

画一的な日本なので、正解の教育というものが一つだけ存在し、それは全ての子供に等しく与えなければならないという幻想があるのかもしれません。それに合致しない馬鹿親の教育観は駄目と判断すればよいと。でも実際には、受けないという選択肢を含めていろんな種類の教育があってそれを選ぶのは保護者なんですね。

三丁目の夕日みたいなステレオタイプのドラマに、金持ちと貧乏人で子供の親権を巡る争いというパターンがあります。金持ちは「自分なら良い教育も受けさせてやることが出来るけど、貧乏人のおまえなら満足なことは出来ないだろう、子供の幸せを考えるなら身を引け」と迫る訳ですね。大抵は子供の望み通りのハッピーエンドとなりますが、考えて見るとドラマの貧乏人と授業料未納の馬鹿親のしている事って外形的には殆ど区別出来ません。子供の希望を優先すべきと考えると、ドラマの貧乏人と馬鹿親は区別出来るように見えますが、それはたまたまです。ドラマでは子供も賢いのでたまたま貧乏人の教育観と合致したに過ぎません。もし子供も馬鹿で金持ちの生活と学校を望めば、金持ちが正しいのでしょうか。そうではなくて、子供には判断は無理で、大人の保護者が行うべきで、それは親権者に任されているというのが日本の教育の考え方なのでしょう。

言論の自由と似ているかもしれません。お上が認める正しい言論も正しい教育の選択というものは存在しません。それを判断するのはそれぞれの言論人であり、親権者です。当然ながら、変な言論や馬鹿親が出現しますが、それは自由のコストと諦めざるを得ません。誹謗中傷や名誉毀損、あるいは児童虐待という極端な事態になればその自由は制限されるというわけですね。


by taku at 2009-03-37 06:51:37
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

済みません。ひとつ分からないのでお聞きしたいのです。
今回の場合がほとんど【ケース2】であったとして、
この対処法を行ったとき”親”にかかるペナルティの量
は、どのぐらいだと見積もられていますか?

この場合最大のペナルティを背負わなくてはならない
のは”親”であると考えていますが、今回の対処法では
ほとんどその親に圧力がかかっていないように見える
のですが。


by 摂津国人 at 2009-03-30 09:00:30
蛇足

 上の3つのケースのどれとも当てはまる学校側の弱みは、公立全日制高校の校則で「アルバイトの禁止」を入れると生徒の教育を受ける権利の侵害に当たると考えられるところかもしれませんね。

 自分で稼いだお金で就学する事は本来問題があるはずは無いのですから。
 教育現場のちぐはぐな対応はむしろ学校の管理の都合や親の側の要請との矛盾も関連があるとも謂えるかもしれません。


by 酔うぞ at 2009-03-05 09:18:05
一律ではないところが悩ましい

摂津国人さん

現在アルバイトを禁止を実践している公立高校は、数年前よりもかなり少ないのではないかと思われます。

ただし、新設校では入学案内に明示的に「アルバイト禁止」を掲げているところもあります。
つまり公立高校でも一律禁止ではなくなっている。

以前は、建前上は全日制の公立高校ではアルバイト禁止でした、しかし実態は学校に報告しないでアルバイトに行っていたわけですが、それが最近では学校が「生徒のアルバイトのために、授業時間をオーバーさせない」事をかなり徹底しています。

これにも背景があって、以前はアルバイト=小遣い稼ぎであったのが、今では生活費の確保としてアルバイトをしている生徒が少なくないから、とのことでした。

学校の対応も一律ではない、アルバイトの必要性も一律ではない、このような状況を「規則」で縛ること自体が非現実的である、ということでしょう。


by apj at 2009-03-49 18:31:49
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

takuさん、

 これは、伝え方によるので何とも……量を見積もるといっても、何を尺度に考えればいいかよくわかりません。

 ただ、今回、記事になった対処法の場合「未納の人には卒業証書を出さない予定」を
・ホームルームで担任が(未納生徒を特定せずに)校長の方針として全員に伝え、親に伝言するように言った
・未納の生徒だけこっそり呼び出して口頭で伝えた
・未納の生徒に、その旨書いたプリントを封筒に入れて親に渡すよう言った
・直接親に手紙を送った
・家に電話して直接親に口頭で伝えた
 それぞれの方法で、親が感じるプレッシャーは異なると思いますし、生徒が感じるプレッシャーも異なると思います。方法によっては、生徒がほとんど意識してなくて親だけが慌てる、ということもありそうです。
 ただ、結果として一人を除いて期限までに支払があり、残る一人も多少遅れたが支払ったわけですから、それなりに圧力はあったのではないでしょうか。自分の子どもを他の人と同じように卒業式に出させたい、と思っている親には、圧力になったから、支払があったと理解するしかなさそうです。

【ケース2】で取り上げた他の方法、少額訴訟などは、直接親にかかっていきますから、通常の法的措置の強制力と考えてよいと思います。


by 摂津国人 at 2009-03-03 19:28:03
Re:一律ではないところが悩ましい

酔うぞさん
>学校の対応も一律ではない、アルバイトの必要性も一律ではない、このような状況を「規則」で縛ること自体が非現実的である、ということでしょう。

 そうだと思います、今回島根の高校も少し調べたのですがアルバイトを推奨している高校も有るものの、多くの高校が禁止だとの(停学など処分を伴う)証言も見つかりました。

 自力での支払いを「禁止」している学校では生徒に対する直接的な処分は合理性に欠けている様な気がします。

 ですので学校ごとの立場が違ってしまうはずの内部の「規則」(登学停止や除籍)よりも一律な対応が可能で、支払い方法の話し合いが出来る(卒業後、本人による分割払いも可能なはず)少額訴訟を主張しているわけです。

 私は教育的配慮と規範の両立はほぼ可能であるとの立場にあります。


by Noom at 2009-03-02 02:04:02
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

apjさん

>>「【ケース1】の場合の授業料免除は必要ない」
>とは主張していません。

了解です。
【ケース1】の場合に子どもが一方的に不利益を被ることを回避する手段が無いというのは法の不備だと思います。
子どもの申し立てで親権に部分的な制限をかけることを可能にする制度は必要ではないでしょうか?
現状では子ども本人が直接申し立てる規定はなく、親権の制限も「親権の剥奪」のみです。
【ケース1】の授業料免除は「制限された親権者の子」に対して行うことにすれば「誰でも免除を求めることが可能」という事態は避けられます。


by 酔うぞ at 2009-03-15 03:30:15
無理な事は無理なのです

Noom さん

    子どもの申し立てで親権に部分的な制限をかけることを可能にする
    制度は必要ではないでしょうか?
    現状では子ども本人が直接申し立てる規定はなく、
    親権の制限も「親権の剥奪」のみです。

正にその通りなのですが、親権に関わることができるのは、裁判所か児童相談所しかないわけで、さらには子供本人の申立、ということ自体が親権と相容れないのは言うまでもないわけですから、さすがに無理でしょう。

義務教育では親に義務が課せられますが、普通に考えてどこかで「教育を受ける権利」の保障は無くなるわけです。
それが高校教育で無くなってしまうのはどうか?ということがここの議論の中核にはあるわけですが、そこに触れると「高校の義務教育化」そのものになってしまって、かえって実現不可能な議論になってしまうように思います。

NHKの「高校中退」では、定時制高校に通学する生徒に対する補助が削減されるという話が出ていて、わたしもこれは酷いと感じました。
しかし、授業料の不払いではないのです。

苦学生が、正しい手続きした場合に、授業料などを免除し、学生生活を送ることが出来る生活補助を行う、といった事は必要だと思いますが、手続をしないで結果だけを得るというのは不可能でしょう。


by 地下に眠るM at 2009-03-58 12:04:58
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

http://d.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20090312/1236794529

先日もエントリをリンクして反論したのですが、お返事をいただけませんでしたにゃ。

今回、apjのコメントのひとつを検討し、その欺瞞性と非論理を徹底的に明らかにし、その論点をほぼすべてすりつぶしたと自負するエントリをあげましたのでリンクしておきますにゃー。

こちらからの反論が必要になったら、原則としてエントリをあげてそちらに周知するつもり

ここのエントリ記事もとりあげているので、こちらにも。


by taku at 2009-03-27 12:29:27
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

apjさま

確度の低い話に御返答いただきありがとうございます。

まず「少額訴訟」方法には賛成します。その上で、

>「自分の子どもを他の人と同じように卒業式に出させたい、
>と思っている親には、圧力になったから、支払があったと
>理解するしかなさそうです。」

これに関して、逆に学校側が支払わせる逃げ道を与えたよ
うに見えて仕方がないのです。すなわち保護者側に「子の
卒業を担保にとられたので仕方なく払った」というような感じ
です。

で、それは違うだろうと。学校側は授業を行い、子は所定の
成績を修めた。後は保護者側が授業料を払う義務がある
だろうと。従って担保に取るべきは子の権利である卒業証書
ではなく、保護者の資産でなくてはならないのでは?
と考えています。

「全額納入しない場合は卒業証書を渡せない」ではなく
「全額納入しない場合は法的措置を含めた検討をします」としな
ければならなかったように思えます。

授業料の支払にあまり関係ない生徒の権利を絡めることによって
何というか、話のスジが非常に悪くなったと考えています。


by 酔うぞ at 2009-03-33 19:26:33
そうでしょうか?

takuさん

    「全額納入しない場合は卒業証書を渡せない」ではなく
    「全額納入しない場合は法的措置を含めた検討をします」
    
    としなければならなかったように思えます。

この部分がちょっと理解できません。
「しなければならない」との事ですから、卒業証書を渡す/渡さない、と法的措置が互換できる価値がある、ということになりますね。

この部分についての takuさんのお考えは、

    学校側は授業を行い、子は所定の成績を修めた。
    後は保護者側が授業料を払う義務があるだろうと。
    従って担保に取るべきは子の権利である卒業証書ではなく、
    保護者の資産でなくてはならないのでは?と考えています。

からのものでしょうから、どうも「子供が授業を受けること」と「親の支払」を別の問題として考えられているように感じます。

しかし、授業料の支払いとは、経済行為としては「サービスと対価の関係」であって、対価の支払いが無い場合にサービスを停止する方が普通でしょう。
そしてその理由は、一般的にはサービスを受ける側(この場合は生徒)と対価を支払う側が一体であることを前提に、契約は進んでいきます。

実際には子供に授業料を持たせたら使い込んでしまった、なんての昔も今もあることでしょう。
どっちにしても、サービスを受けることと対価を支払うことを「原則として分離して考える」のはいささか以上に無理があるのではないか?と思います。

原理的には、「生徒と学校はサービスの提供と対価の支払の契約を結ぶ」「その保証を親が行う」といった型式にしませんと、対価の支払いだけを独立して扱うことはできないでしょうし、さらに親の支払について「保証機関を付ける」といった展開になると思います。

もちろん、生徒が未成年である場合に基本的に契約が独自に行えないのですから、上記のアイデアは実施不可能で、子供と親は一体となって、サービスを受け対価支払う契約を結ぶしか手だてがないのですから、これを分離して考えること自体が無理だとも言えます。

こんな事を考えますと、いきなり出席停止とか、取得単位の取り消し、在学記録の抹消、といったことに比べると卒業証書を授与しないというのは、そうそう悪い判断だとは思えなくなってきます。


by apj at 2009-03-06 21:39:06
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

takuさん、酔うぞさん、

私も酔うぞさんと同意見です。

>これに関して、逆に学校側が支払わせる逃げ道を与えたよ
>うに見えて仕方がないのです。すなわち保護者側に「子の
>卒業を担保にとられたので仕方なく払った」というような感じ
>です。

 もともと、授業料が支払われなかった場合には、最もドラスティックな方法として「除籍」が認められているわけですから、規則上、卒業は常に担保にとられている状態と考えるしかありません。

>で、それは違うだろうと。学校側は授業を行い、子は所定の
>成績を修めた。後は保護者側が授業料を払う義務がある
>だろうと。従って担保に取るべきは子の権利である卒業証書
>ではなく、保護者の資産でなくてはならないのでは?
>と考えています。

 授業は、授業料を支払った対価として行われるわけですから、この部分を分けるのは無理があると思います。

酔うぞさん、

>もちろん、生徒が未成年である場合に基本的に契約が独自に行えないのですから、上記のアイデアは実施不可能で、子供と親は一体となって、サービスを受け対価支払う契約を結ぶしか手だてがないのですから、これを分離して考えること自体が無理だとも言えます。

 この部分なんですが、契約の当事者を学校と親だと解して、その契約によって子どもが高校に行く権利を得るということで、民法上の「第三者のためにする契約」として扱うという考え方はできないでしょうか?

>こんな事を考えますと、いきなり出席停止とか、取得単位の取り消し、在学記録の抹消、といったことに比べると卒業証書を授与しないというのは、そうそう悪い判断だとは思えなくなってきます。

 卒業証書を授与しないという対応をとるということが、もともと規則に無かったから、恣意的な措置でありイジメと受け取られる可能性があるのでまずいということでしょう。規則通りにやるなら、「卒業証書を授与しない」ではなく「除籍」となりますし。


by apj at 2009-03-55 21:43:55
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

takuさん、酔うぞさん、

私も酔うぞさんと同意見です。

>これに関して、逆に学校側が支払わせる逃げ道を与えたよ
>うに見えて仕方がないのです。すなわち保護者側に「子の
>卒業を担保にとられたので仕方なく払った」というような感じ
>です。

 もともと、授業料が支払われなかった場合には、「除籍」というドラスティックな対処方法が認められているわけですから、規則上、卒業は常に担保にとられている状態と考えるしかありません。

>で、それは違うだろうと。学校側は授業を行い、子は所定の
>成績を修めた。後は保護者側が授業料を払う義務がある
>だろうと。従って担保に取るべきは子の権利である卒業証書
>ではなく、保護者の資産でなくてはならないのでは?
>と考えています。

 授業は、授業料を支払った対価として行われるわけですから、この部分を分けるのは無理があると思います。

酔うぞさん、

>もちろん、生徒が未成年である場合に基本的に契約が独自に行えないのですから、上記のアイデアは実施不可能で、子供と親は一体となって、サービスを受け対価支払う契約を結ぶしか手だてがないのですから、これを分離して考えること自体が無理だとも言えます。

 この部分なんですが、契約の当事者を学校と親だと解して、その契約によって子どもが高校に行く権利を得るということで、民法上の「第三者のためにする契約」として扱うという考え方はできないでしょうか?
 この場合でも、金を払ってない状態で対価をよこせ、という主張は無理があるでしょうけど。

>こんな事を考えますと、いきなり出席停止とか、取得単位の取り消し、在学記録の抹消、といったことに比べると卒業証書を授与しないというのは、そうそう悪い判断だとは思えなくなってきます。

 卒業証書を授与しないという対応をとるということが、もともと規則に無かったから、恣意的な措置でありイジメと受け取られる可能性があるのでまずいということでしょう。規則通りにやるなら、「卒業証書を授与しない」ではなく「除籍」となりますし。


by Noom at 2009-03-21 01:50:21
Re:無理な事は無理なのです

酔うぞさん

>そこに触れると「高校の義務教育化」そのものになってしまって、

ここは「義務化」で正しいですか?国の負担は無償化>義務化なので、どうしても無償化のほうが先に議論の対象になるように思ってしまうのですが。

>苦学生が、正しい手続きした場合に、
>手続をしないで結果だけを得るというのは不可能でしょう。

【ケース1】の子どもはその「手続き」すらできないわけで、手段を法的に与えようとすると親の権利を縮小するなり子の権利を拡大するなりその両方なりが必要になるが、どうよ?という話です。


by Noom at 2009-03-31 01:54:31
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

すみません。
前コメント「無償化<義務化」でした。


by トンデモ法学 at 2009-03-30 05:06:30
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

>>Noomさん

義務教育は無償でなければなりません(憲法26条2項)。ですので、義務教育化は必ず無償化をもたらします。しかし、義務教育化と無償化の主たる差異は、親の教育権を制限し自分の子供に一定の教育を受けさせることを強制する点にあります。無償化はそうではない。両者の本質的差異は国の負担の大小(その差はもちろんあるのですが)の問題ではなく、教育に関わる親と子の対立しうる権利(ないし利益)を如何に保障するかという点にあります。

ところで「地下に眠るM」さんのブログを見てみましたが、読んでいるこちらがニヤニヤしてしまうほどトンデモ法学ですね。国ないし地方公共団体と私人の契約が私法によって規律されない、などという妄想をどこから考え付いたのでしょうか。たとえば電気水道などの供給契約もそうですが、それらは普通に私法上の契約だし民事訴訟で争うのですよね。今回問題になっている公立高校との契約もまったくそれに該当します。なお、その余についてもなかなかに強いデンパを発しているので楽しめました。


by apj at 2009-03-11 05:23:11
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

Noomさん、酔うぞさん、

 このエントリーの(1)に書いた、親権を一部制限してでも教育を強制する、という制度が即ち義務教育であると気付いたので、その旨追記しました。
 義務化と無償化の関係が、私にはまだよく整理できていませんので、私の考察はとりあえず(1)に馴染むのは義務化、(2)に馴染むのは無償化、というところまでです。

トンデモ法学さん、
 はじめまして。
 そんなわけで、義務化について少し追記しました。ご指摘ありがとうございました。端的なまとめをありがとうございました。

 私は、ここしばらくの間、法学に興味を持って、学部レベルの教科書を読むことに取り組んでいますが、まだまだ入り口をうろうろしているだけです。さすがに、地下に眠るMさんの議論がトンデモ法学らしいと気付いてはいるのですが、法学の考え方に乗っ取って理路整然と批判できるほどに私の知識が無いものですから、こちらの方で皆さんの考え方をおうかがいしながら、徐々に現行法の理解も深めて行きつつあるところです。
 科学であれば専門なのできちんと議論できるのですが、今の私の法学の知識では、理解不足から議論を間違えて、却って収拾がつかなくなりそうなので、今回はじっくり自分のペースで思索しております。


by apj at 2009-03-07 05:26:07
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

Noomさん、酔うぞさん、

 このエントリーの(1)に書いた、親権を一部制限してでも教育を強制する、という制度が即ち義務教育であると気付いたので、その旨追記しました。
 義務化と無償化の関係が、私にはまだよく整理できていませんので、私の考察はとりあえず(1)に馴染むのは義務化、(2)に馴染むのは無償化、というところまでです。

トンデモ法学さん、
 はじめまして。
 そんなわけで、義務化について少し追記しました。ご指摘ありがとうございました。端的なまとめをありがとうございました。

 私は、ここしばらくの間、法学に興味を持って、学部レベルの教科書を読むことに取り組んでいますが、まだまだ入り口をうろうろしているだけです。さすがに、地下に眠るMさんの議論がトンデモ法学らしいと気付いてはいるのですが、法学の考え方に則って理路整然と批判できるほどに私の知識が無いものですから、こちらの方で皆さんの考え方をおうかがいしながら、徐々に現行法の理解も深めて行きつつあるところです。
 科学であれば専門なのできちんと議論できるのですが、今の私の法学の知識では、理解不足から議論を間違えて、却って収拾がつかなくなりそうなので、今回はじっくり自分のペースで思索しております。


by taku at 2009-03-23 06:56:23
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

酔うぞさん、apjさん

不躾な質問に丁寧な回答ありがとうございます。また自身が
下記をほぼ全く理解できていない事も了解です。

>生徒が未成年である場合に基本的に契約が独自に行え
>ないのですから、上記のアイデアは実施不可能で、子供
>と親は一体となって、サービスを受け対価支払う契約を
>結ぶしか手だてがないのですから、これを分離して考え
>ること自体が無理だとも言えます。

で、教育サービスの最大の受益者が生徒側であることは
認めます。そのため契約の主体が生徒であることも了解
しました。これにより対価を支払わないデメリットは生徒に
降りかかるという事ですね。

上記を前提に、生徒側に通学の意志があり、また保護者
側もそれを黙認している場合(=保護者にもメリットがある。
今回がこのケースですよね?)、未納に対する督促状や
今回のような「卒業証書を授与しないぞ」通知は、主体者
である生徒にそれとわかるように通知されるべきですよ
ね。(わからなければ対応がとれない。。。)。

これを受け取った時、生徒側がとれる対応としては
 1)保護者にに泣きつく
で払ってくれればよいのですが
 2)アルバイトで払う(学業と両立できるかが問題。
   両立されている方には本当に頭が下がる思いです。)
 3)自身の預貯金があればそこから?
等の生徒の自腹を切る他に、あまり良い方法とは思え
ないのですが
 4)生徒側が親側に授業料を支払うよう訴えを起こす
  (かもしれないと脅す?)。
事は可能ですか?一応口約束でも払うと言ったと考えられ
ますので。それともこれも「一体としてのサービス」なので
ダメなのでしょうか?その他、生徒側が親側にとれる
対応って考えられないでしょうか?

*どこまで保護者側に支払いの義務があるのか、
 逆にどこまで生徒側に支払いを求められるのか、
 自身の中で曖昧で回答が出てきません。

*高度な議論の中、珍妙な理屈を申したててしまって
 申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。


by トンデモ法学 at 2009-03-40 07:32:40
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

当事者の少なくとも一方が行政主体であるような契約(行政契約)には私法契約と公法契約があるのですが、電気・水道や公営病院・公営住宅などの公共サービスを提供するのと同様に、在学契約も私法上の契約です。基本的にその契約関係は私法の規律に従います。ただ、私法上の契約とはいえ、行政主体に対する公法的規律の余地があるので、純粋に私法的な契約というわけではなく、契約の内容が自由に決められるわけではないなどの制約がある場合があります(これは個々の特別法によって規定されます。水道法によって規律される給水契約だったら契約の申し込みをされたら締結を拒絶できないとか行政側から勝手に解約できないとかですね)。

在学契約の場合には国から学校に補助金が出ていることを考えれば、完全に純粋な私法上の契約(準委任及び施設利用を含む非典型契約)として構成することが必然的だとはいえません。なので、在学契約の場合に、その契約条項の適用に際して学校側が教育基本法などの「理念」に従って行うべきだ(その限りで在学契約関係が公法上の一定の規律を受ける)、という議論はできます。しかし、何をどうすればそうした「理念」に従った(或いは違背した)ことになるのかについて、理念から具体的な行為規範が直ちには生じえない以上はその点については基本的に学校・校長に広範な裁量権を認めざるを得ません(もちろん著しく理念に反すると裁判所が認定する場合は別ですが)。そして、公立高校の校長が今回の事件のように行為したり、或いは学費の支払いを求めて訴訟提起をすることがそうした理念に著しく反するとは考えられていません(もしそうならそれは私法に準拠する他の行政契約の場合のように特別法できちんと在学契約を規律する規定が定められているべきはずのものですし、実際に公立高校が無償化されておらず受益者負担の原則によっていることそれ自体が、立法者が公立高校との在学契約を私法契約に基づいて学校生徒間を規律しようとしていることを推定させるのです)。ですので、私法上の同時履行の抗弁権などに基づいて、学校側が卒業証書を引き渡さなかったりすることは私法上は問題ありませんし、それが校長の裁量権の範囲内であるならば公法上の問題もありません。教育サービスを総て提供した上で(卒業させて)から学費を支払わせるべく訴訟を提起するというのが一番筋がいいようには思いますが、やはり校長の裁量の問題でしょう。

ちなみに法律家ではなく教育関係者が在学契約について論じるとどうにも教育基本法の「理念」が私法的な在学契約を公法的に規律しうるというところを強調し、しかもその「理念」に自分自身の思想信条を読み込みたがる傾向にあります(その結果どうにも電波ゆんゆんな議論になる)。しかし、個々人の雑多な思想信条の自由によって「理念」が理解され法の内容が個々人によって雑多に理解されると、倫理的な思想信条の相違に関わらず人々を共通に規律すべき最低限の規範を提供するという法の本質的機能――法的安定性も――が損なわれますので、そこは校長の裁量に委ねて決する、というのが法解釈上の筋論です(校長が「理念」に従って誠実に行為するよう求めつつ、その結果校長が下した判断はたとえそれが個人個人の気に入らないものだとしても裁量権の行使として認める)。ですので、校長が倫理的にいってその裁量を如何に行使すべきかについて自分の思想信条に基づいて語ることは自由ですが(どうぞご自由にとしか言いようがない)、実際に取られたその裁量の行使の結果について――たとえそれが自分の「理念」理解と食い違っていたとしても&校長の行為が倫理的には不適切だと思ったとしても――それが法的に誤っており違法だと論難することは筋違いなのです。


by 酔うぞ at 2009-03-11 08:20:11
第三者にするは難しいと思う

apj さん

    契約の当事者を学校と親だと解して、
    その契約によって子どもが高校に行く権利を得るということで、
    民法上の「第三者のためにする契約」として扱うという考え方
    はできないでしょうか?

学校は親と子供が一体のものとして契約する、という方が分かりやすいと思います。

まず、入学資格は子供が持っているわけで、入学資格を子供が満たさないと入学できない。
一方、経済的な契約は子供が結ぶ場合であっても親が実行するわけだから、子供だけでは授業料支払いについての契約はできない。

こう考えると、親と子供を分離してどちらかを第三者とする考え方には無理があると思います。
授業料については、勤労学生では自分で支払が可能だとなりますが、その場合でも未成年では親と雇い主などの支払についての保証といったものが必要になるでしょうから、どうも完全に切り離すということ自体が、未成年である場合には無理だと言えそうです。


by 酔うぞ at 2009-03-17 08:34:17
実際的には

Noom さん

    >そこに触れると「高校の義務教育化」そのものになってしまって、
    
    ここは「義務化」で正しいですか?国の負担は無償化>義務化なので、
    どうしても無償化のほうが先に議論の対象になるように思ってしまうのですが。

国の負担は無償化>義務化なので

わたしは、こういう議論は聞いたことがありません。

無償化する範囲が決められないでしょう?
一律無償化を実施するためには、範囲を決めないといけませんが、それを決めたら事実上の義務教育制度になってしまいますよね?
高校が同じ内容の教育をする、というのは現実的に無理だと思いますし、現実に公立高校の授業内容は結構バラバラですよ。
さらには、工業・農業・商業といった高校は今もありますし、こう言うところを一律に無償化できるとも思えないのですが・・・・・・。

    【ケース1】の子どもはその「手続き」すらできないわけで、
    手段を法的に与えようとすると親の権利を縮小するなり
    子の権利を拡大するなりその両方なりが必要になるが、どうよ?という話です。

その通りですが、それで何が問題なのか分からないです。
わたしには当然の結果にしか見えない。

子供の意に反しているから、虐待に当たるかもしれない。というところには同意しますが、虐待か否かといった事実関係の判断が決まらないと解決しないし、問題になった親権の観点から見ると「高校進学に同意しないだけでは虐待には当たらない」となると思います。


by 酔うぞ at 2009-03-45 08:53:45
義務化と無償化

ここの整理が議論の中にちゃんと出てなかったですね。

無償化にするためには、内容を統一しなくてはならない。
そして、供給側に統一した基準でのサービス提供を義務づけることになります。
これは、イギリスの医療体制が今でもこの方式だったと思います。

高校教育が、小中学校よりも内容が統一しない方向に向かうのは当然で、統一した内容だから無償化、ということには出来ないだろうと考えています。

では、サービスの内容はバラバラだが、対価は無償であるというのはあり得るのか?と考えると、かなり厳しい。
例えば、無償であることを代償を成績などに寄ることになるのではないだろうか?

現在でも少なくない、出席すらしないで退学するような高校生に無償でサービスを提供することを社会は是認するのだろうか?
あるいは、逆にすごく一生懸命やったけど、目的とする資格を得られない=意味無い高校生活であった、という生徒に無償であるからという理由で、その高校に縛り付けておくのは高校生本人にとって有益なことなのだろうか?

現在の高校では上記のような、退学を含む進路転換は非常に多く起きていて、マスとして見ているだけではとても目が届かないからなんとかしようというのが、キャリアー教育推進の大きな動機になっています。

学費援助としての、授業料免除と学生生活のための補助金、さらに奨学金制度といったものの拡充は図るべきで、大阪府のような判断はダメであると思いますが、これは無償化とは縁遠い話であって、無償化するためにはサービス提供側に義務を課す必要がある、という点を論じないと無償化に至らないでしょう。

わたし自身は、高校教育の一律化自体が不可能であるから、結果として無償化はあり得ないと考えます。


by トンデモ法学 at 2009-03-32 10:07:32
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

大事なことを忘れていたので付言。国公立学校の場合には学校と生徒の間は在学契約ではなくて特別権力関係にあるという説がかつて通説でした(いまも有力説ですけど)。でもこれとると、学校と生徒の間が特別権力関係なので、紛争が起きたときに私立学校と比べて均衡を逸しているといえるほど色々な点で生徒が不利になるので――契約関係ではないので債務不履行構成で争えず国賠一本やりとか――今では採られることが少なくなりました(「地下に眠る猫」さんは行政処分構成をとると自分の首を華麗に絞めることになります)。私立大学だけじゃなくて国公立大学に関する入学金返還訴訟とかでも在学契約説での判決が普通に出てます。まあとりあえず地下猫は電波飛ばしすぎ。


by taku at 2009-03-05 10:13:05
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

酔うぞさま・皆さま

何か理解の淵に立ったような気がします。
学校側から法律を介して見ると、保護者と生徒は
完全に同人格ということですね。

従って親の資産・子の資産なんて区別はないし
卒業証書とは卒業した証書であり、卒業させた
証書でもあると言うことですね。

お手数をおかけしたことお詫びいたします。


by ずぶしろ at 2009-03-47 17:11:47
他の県でも

 卒業証書渡さない、回収で検索すると、かなり広く行われているみたいですね。このブログでの議論の発端となった島根県立高校の記事を見たときは異例な対応との印象を持ったのですが。

 見ると、生徒会費やPTA会費の滞納も卒業証書回収の理由となっているとか。もともと卒業証書を渡さないという方法がイレギュラーなものなので、生徒会費等が加わっても議論のスジが変わるものではないと思います。
 ただ、授業料と違って、生徒会費やPTA会費は、収入が不足すると支払いができない、決算できないということが直ちにおこり、学校現場にとっては、より切迫した問題なのだと思います。

 私も、議論の整理は概ねついていると思いますが、事実関係も進んでいるようなので、ひとこと付け加えさせて頂きました。


by 地下に眠るM at 2009-03-36 21:40:36
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

遅くなったが反論をあげたのでリンクする
http://d.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20090320/1237520270
トンデモ法学氏にはご一読願いたい。


by なお at 2011-01-04 14:39:04
Re:「親がアホのツケを子どもに回すな」が意味している内容

これって、参考文献とかってありますか?
どこからの情報か知りたいんですけど・・・。