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量子ファイナンス工学入門

Posted on 6月 7th, 2006 in 倉庫 by apj

 トンデモ本大賞を受賞した「量子ファイナンス工学入門」を、注文していたのだが、本日届いた。いやもう素晴らしいw。大まじめに冷静にトンデモないことが書いてある。

株価を花粉粒子よりもさらに小さい量子に例えるならば、株価は複素数空間にある量子の従う運動原理に支配されていることになる。

 収束の概念の例としてζ関数を持ち出し、ζ(12)の分子に691という数が出てくるもんだから、

西暦691年に持統天皇が織女星と牽牛星を祭る七夕の宴が開催しているから、691という数字は宇宙に関する数字かもしれない。

波動関数に従う金融資産が一定の座標(株価チャートと同じである)という部分空間に存在する時、確率測度は確率振幅になり、この座標内のどこかに金融資産の価値が見出される確率振幅は0から1の値をとる。

古典的な運動をする金融資産の経路は、過去から未来へ進む光円錐の中の一本の矢印として表すことができた。

 何て言うか、書かれている物理学の部分だけを抜き書きするとまともなのに(というか、まともな本から引っ張って来たのだろう)、この著者独自の解釈が加わった部分がことごとくこの調子である。読み進むうちに、「物理学って何?」という疑問が出てくることはなさそうだが、「金融資産って一体?」という気分には浸れる。

 おすすめの一冊だが、著者のトンデモさを堪能するには物理学の素養があった方がより望ましい。ともかく私はこの本を見て、物理学を専門に選んだことが自分の人生において「笑い」を増幅する方向に効いた、という生まれて初めての経験をした。


ここからは旧ブログのコメントです。


by ながぴい at 2006-06-32 07:32:32
Re:量子ファイナンス工学入門

なんだかマニアックなお笑いだな~。
一部にしかウケなさそう…
(シュレーディンガー音頭みたいなもんか?)

ん~、なんだ?
株価は何かのポテンシャルにトラップされてるので、その状態は量子化されてるのかな?
どんな形のポテンシャルなんだろう?
株価は暴落してもゼロ点エネルギーがあるからゼロにはならないとか?


by 田部勝也 at 2006-06-47 08:18:47
Re:量子ファイナンス工学入門

『知の欺瞞』を思い出させますねぇ。この本がきっかけで、のちに「エコノミクス・ウォーズ」とか名付けられる事になる、まったく不毛な(?)大論争を巻き起こす事が、著者の真の目的だったりして……。


by zorori at 2006-06-07 21:03:07
Re:量子ファイナンス工学入門

ドーキンス「虹の解体」(福岡伸一訳)の一節です。

アメリカでは、セルフヘルプを標榜した”癒し系”産業が莫大な利益をあげており、難解で手におえない量子論を持ち出して相手を煙に巻くことで儲ける手法は、とどまることを知らない。これについては、名著「物理学者と超能力者」(1990)の著者、ヴィクター・ステンガーが暴露した通りだ。ある金持ちの信仰治療家はベストセラーとなった一連の本の中で、「量子療法」なるものを唱えている。私の持っている別の本の中には、量子心理学、量子責任、量子倫理、量子美学、量子不死論、あるいは量子宗教学について述べられた節がある。それならどうして「量子介護」はないのかと期待はずれに思う人もあるかもしれないが、たぶん私が見落としただけなのだろう。

ドーキンスの見落としの可能性が高いですね。


by naka64 at 2006-06-46 17:18:46
Re:量子ファイナンス工学入門

asin:4334032672 で使ったカオス理論ももともとアモルファス物性の研究ネタに使ってた、ってところから結びつけたのかなあ…。
なんだか、取り寄せる気が失せる。


by と at 2006-06-51 23:26:51
Re:量子ファイナンス工学入門

オプション価格の算定なんかだと、ランダムウォークが仮定されていたりすることがあるので、花粉のブラウン運動がでてきても不思議はないですが、量子力学に突入するのはいかがなものかと・・・

ちなみに、よくわかりませんが擬似乱数を使ったモンテカルロシミュレーションだと正しい値に収束しないので、超一様分布を使ったシミュレーションがよいとか何とかどこかで読んだ記憶があります。


by さくま at 2006-06-48 09:01:48
Re:量子ファイナンス工学入門

>西暦691年に持統天皇が織女星と牽牛星を祭る七夕の宴が開催しているから、691という数字は宇宙に関する数字かもしれない。

 日本の歴史を持ち出すなら、西暦を持ってくるのは不自然でしょう。年号か皇紀でないとね。と、ケチをつけるだけなら簡単ですので、ちょっと調べてみました。

大正6年9月1日 船木村が町制施行し、船木町となる。
大正6年9月1日 八王子市 市制施行
昭和6年9月1日に清水トンネルの開通
明治 6年 9月 1日 白州灯台(福岡・北九州市)初点灯

う~ん、あんまり面白そうなのはないなぁ。皇紀691年は特筆するようなことは無かったみたいだし。

ちなみに、691という数字の並びだけならば、昭和6年9月18日に満州事変が勃発しておりますが、さすがに無理ありすぎか。

>とさん
 疑似乱数も馬鹿にしたものではないですよ。たとえば、メルセンヌ・ツイスター(http://www.math.sci.hiroshima-u.ac.jp/~m-mat/MT/mt.html)ならば、「623次元超立方体の中に 均等に分布することが証明」されており、周期は2の19937乗-1(10進数で6000桁以上)で、しかも高速(Cの標準ライブラリのrandと同等)
という特徴を持っています。さらに、疑似乱数なので、同じ種を用いれば同じ結果が得られる(再現可能)という特徴もあります。


by と at 2006-06-50 04:28:50
Re:量子ファイナンス工学入門

>さくまさん
私が読んだ元ネタはこちらです。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/400006584X/qid=1150366441/sr=1-21/ref=sr_1_2_21/503-2650491-0452753
今日内容を確認したところ、モンテカルロシミュレーションが問題になったのは1992年だったそうで、話が古かったかもしれません。・・・と、さくまさんご紹介のメルセンヌ・ツイスターはこの著者(手塚 集先生)の研究も絡んでいるのですね。教えていただきありがとうございます。


by thorysgary at 2006-09-44 14:30:44
Re:量子ファイナンス工学入門

ブラウン運動⇒フォッカー・プランク方程式⇒ダイソン方程式という流れなら、そんなに強引な感じは受けないですんだかもしれない。


by 杉山真大 at 2008-03-55 10:34:55
Re:量子ファイナンス工学入門

何か、「知の欺瞞」でポストモダン言説のトホホぶりを笑い飛ばすのに煮ているのですかね?金融理論にしてもブラック=ショールズなどの様に高等数学が絡んで以降、相当衒学的になっちゃっているだけに「知の欺瞞」みたいなのが堂々と罷り通っちゃうのかなぁ・・・・・