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早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

Posted on 6月 29th, 2006 in 倉庫 by apj

 捏造とされたAnal. Chem. 73(2001)1869の論文をコピーしてきた。しかし、なじみのない内容なのでよくわからないな……orz。

 不正経理は……身の丈以上の研究費をとると起こりがちなのかもしれない。博士課程の院生時代に、教授に通帳作らされた経験を持つ身としては、大学が違ってもやっぱり同じことが起きるもんだなぁ……と。教授の説明は、「同じ研究室の経済的に困っている留学生への援助だ」というものだった。私がやらされた頃は、院生を別室に呼んで一人ずつ説得していた。でもまあ、「バレたらクビだから秘密厳守」と言い含められたので、ヤバイという認識は教授の方にもあったと思う。
 私が修了してしばらくしてから、だんだん感覚が麻痺したのか横着になったのか、そのプロセスをすっ飛ばして説明抜きで通帳作らせて印鑑とともに預かるようになり、一方、研究では、D4D5D6が続出するような指導をしまくって院生の不満が高まり、あげくに内部告発で、通帳作らされたの研究内容盗られたのと、三週連続サンデー毎日にすっぱ抜かれて大騒動になったわけだが。
 今回の騒動見てると何だか既視感が……orz。

 データ捏造については、知り合いの私学の先生曰く「学生の捏造を見抜くのも商売のうち」だそうで……。まあ、間違いはチェックしないといけないが、最初から学生を疑ってかかるのもちょっと問題がある。
 私の対策としては、予断を与えないような指示の出し方を工夫する、くらいか。最初に結論ありきなのは良くない。「こういうデータだと指導教員が気に入るに違いない」と学生に思われている状態で、変にプレッシャーをかけるとまずいだろうな。

 しかしまあ今回のは、 韓国の黄教授に並ぶ「壮大なフィクション」を構築していたっぽいので、そういうのが好きなら税金使わず自費でワープロでも買って創作してれば良かったのに。


ここからは旧ブログのコメントです。


by 樹梨亜 at 2006-06-23 09:47:23
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

論文コピーをありがとうございます。
しかし,版権侵害なのでは?
http://dx.doi.org/10.1021/ac0013305
を掲載するのが正解。


by apj at 2006-06-03 10:09:03
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

 引用が従になるまで議論しないとまずいだろう、とは思っています。じっくり読んでコメントを追加していければと。


by ながぴい at 2006-06-49 10:26:49
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

う~ん、
この論文を公開することにあまり意味があるとは思えません。
なぜなら、この論文の真偽を判断できる能力があるのは、ごく少数の人間だからです。
実際問題、とうの錯体を合成して再現実験するしかありません。
また、仮に実験に間違いが見つかったとしても、それは単なる間違いであったという言い訳ができるので、捏造であるという直接の証拠にはならないでしょう。


by apj at 2006-06-18 11:38:18
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

 ながぴいさんが書かれたようなことが分かるということ自体に意味があると私は考えています。それには、論文を実際に読んでみないとわからない。
 おっしゃるように、論文をちゃんと読んでも、単なるポカなのかねつ造なのか判断できない、ということになれば、何を証拠としてねつ造であると判断するのか?ということが次の問題となります。
 本当にねつ造があったのか、それとも、ポカをねつ造とでっち上げているのか、よくわかりません。マスコミはいろいろ書いていますが、それはそれとして、何があればねつ造があったと判断できるのかを少し立ち止まって考えてみても良いのではないかと。


by ながぴい at 2006-06-17 18:54:17
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

論文の方は、わしも既に入手してます。
暇があれば読んでみて、意見があればまた書き込みます。

まさか、とうの錯体の合成自体が捏造ってことはないよな…?


by apj at 2006-06-11 19:40:11
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

 合成の件はよろしくお願いします>ながぴいさん。私は物理出身で有機化学をきちんとやっていないので、合成のスキームが妥当かどうかを判断できません。
 ただ、折も折、科学リテラシーの講義で、科学がどうやって進んでいるか?というネタをやりまして、論文査読の精度とか、追試とか、たまにはレフェリーがズルする場合もあるといったことを話しました。
 私もレフェリーをしたことがあるんですが、審査では普通は追試まではしません。全体としてあからさまな間違いや矛盾がないか、論理に飛躍がないか、主張の内容と示された結果に齟齬がないか、といったことをまずチェックします。新規な部分が大きければ大きいほど、それに見合った決定的な証拠が提示されているかをチェックします。
 そういう方法で、問題の論文を読んだとき、果たしてチェックは可能なのか、と疑問に思っています。量子収率の問題が指摘されていましたが、仮にねつ造だったといして、もしレフェリーが指摘し、もうちょっと適当な値にねつ造しなおして提出されちゃったら、果たして噂になったかどうか……とか、いろいろ考えてしまうんですよ。
 査読は性善説で運用されているシステムであるがゆえに、悪意を持って裏をかかれたらどうにもならないということかもしれません。


by 酔うぞ at 2006-06-19 20:35:19
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

あのぉ~、質問(手を挙げてる)

「論文捏造」という話に「データの捏造」と出てきますよね。
これはしろとでも良く分かる。

早い話が、実験しないで実験値を書いたら捏造ですよね。

わたし、研究とはデータとその解釈で成り立っているのだと思っているので、データ捏造以外は解釈の捏造か?になってしまいます。

もちろんあり得ない解釈を発表することもトンデモ系ではよく見ていることですが、そりゃ捏造社無くて妄想だったり、詐欺というか瞞しでしょう。

そうなるのと、捏造とはデータ限定じゃないのですかねぇ?
区別することに意味がないのかな?


by ながぴい at 2006-06-31 23:38:31
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

有機金属錯体の合成に関しては、和子先生はプロ中のプロなので、これが捏造だとするとお粗末極まりないとしか言えません。その可能性は低い。目的化合物が出来ているかどうかは、元素分析、NMR、X線構造解析などといった手法で分析されるので、これらのデータをすべて捏造するのは至難の業です。どの程度正確な分析をしているかが決め手でしょう。

彼ら(彼女ら?)が疎いのは、どちらかというと物理化学的な分野だと思います。だから注目されるのは、要旨にも書かれている、バッファー水溶液中で蛍光量子収率が1.00だということと蛍光寿命が2.681ミリ秒だということです。

これらの値は異常に大きい。
項間交差や無輻射失活があるので、普通蛍光量子収率が1.00だということはあり得ない。蛍光寿命が2.681ミリ秒だというのも長すぎ。普通の有機物質の蛍光寿命はナノ秒の領域ですね。蛍光と間違えて燐光を見ている可能性もありますが、室温の溶液中の燐光だとしてもこの寿命は長すぎる気がします。


by apj at 2006-07-55 02:33:55
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

 今、Physical measurementsのところを見てる。
 物理系の分光屋として気になったところをいくつか。
・問題の蛍光寿命を決めた生データ(スペクトル)が掲載されていない。
・量子収率の計算は、引用文献22を見ないとわからない。気になったのが、表1のεの値。モル吸収係数だと書いてあるけど(量子収率の計算でも使ってる量だけど)、9290って数値が3つ出てくる。これって、オーバースケール寸前か、サチってるかじゃね?4桁の精度の測定して、モノが違うのにぴったり一致って有り?
・で、すごーくひっかかったのは、グラフの描き方がどれもなってない。並べて見比べるはずのグラフの、縦軸と横軸のスケールが全部ちょっとずつ違うから、見てもなかなかわからない。グラフ描きのソフトのautoscaleそのままで、枠一杯にデータを出せばいいと思って何もせず図にしたんじゃないのかこれは?
 物理じゃ気にするし、ウチの学生がこれやったら再提出だけど、有機はこういうのは気にしないのか?スペクトルから何か言いたい人の作るグラフじゃないと思うんだが。

 確かに、溶液中で蛍光寿命が2ミリ秒もあるというのは異常ですね。普通はこんな値が出たら、自分の頬をつねってから実験装置を見直すもんですが……。分野に疎かったのなら、捏造するとしてももっと無難な値にするんじゃないかと。3桁違う値ってのは、もう、何か根本的に間違えたとしか思えない。

 普通に蛍光寿命を測るとしたら、横軸時間で縦軸蛍光強度っグラフを指数関数でフィッティングするって感じだよね?ソフトによっては、指数関数の重ね合わせをやってくれたりして便利なんだけど……意味も訳もわからず付属のソフトを使って、メインの蛍光の減衰じゃなくて、バックグラウンド成分みたいなのに合ってるパラメータの方を読んじゃったってことはないのかな。これなら3桁違っても納得できるんだけど。何かあちこちで、レンジ間違えたとか、パラメータ設定を間違えたとか、やらかしてそうな気がする。

 合成はできるけど光関係の分析はぜんぜんダメポな院生が、時間分解蛍光測定装置のその他の扱いをしくじって、とんでもないデータを出してそれがスルーされちゃった、って印象を受ける。


by ながぴい at 2006-07-42 06:28:42
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

たしかにデータ見にくいっすね。

論文の第一著者は中国人のポスドクだとのことらしいので、院生がどれだけ関与してるかは知りません…


by すっぱいぶどう at 2006-07-26 08:13:26
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

>知り合いの私学の先生曰く「学生の捏造を見抜くのも商売のうち」だそうで……。

私の師匠は、動物的カンに近いもので、疑問点を問い詰めた結果として、学生やポスドクの些細なデータのごまかしすらも白日のもとにさらしていました。この言葉は、学生を疑うというよりは、apjさんやながぴいさんが言っておられるような、研究に対する自身の感性を研ぎ澄ますという意味かも知れません…。


by com at 2006-07-58 08:17:58
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

今回の一連の報道を見て、何を以てして「捏造」と報道しているのか、理解に苦しむのですが…。

酔うぞさん。
データ捏造とデータご都合主義解釈では、やっぱり差があるかと。
データ捏造には、実験そのものを捏造してしまうケース…思考実験がそのまま論文になる…では、一から百まで自作自演、となるでしょう。
データご都合主義解釈は、apjさんとながぴいさんが議論しておられる通り、データの解釈ミス、取得ミスから始まって、意図的なご都合主義解釈…この辺までくるとトンデモ系ですが…に細分化されるかと。
#もっと相応しい細分化があるでしょうが^^;

そう考えると、ある程度は区別した方がイイかと思います。…最初から予断を持って「捏造」とするよりは。


by 樹梨亜 at 2006-07-27 08:19:27
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

蛍光寿命が常識的にどの程度か,という問題もあるが,
モル吸光係数等から一石のA係数を計算すれば,
ナノ秒領域だとわかるはず。査読者が指摘すべきだ
と思うが。


by コタロー at 2006-07-31 09:29:31
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

30年前、助手に言われてからでめんにkよく印をおしました。

当時は大学の研究室では現金を持つことができず、かつ大学院生には旅費が支給されませんでしたのでこうやって得た現金は大学院生の野外調査の交通費の補填に使われていました。

必要悪だったかなと思っています。

投資信託を買うようなヒトはいませんでした。HI!


by 杉山真大 at 2006-07-11 07:33:11
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

今回の早大の一件、元同僚の”火の玉教授”はどう見ているんですかね?Kの国の黄教授の際には国家挙げて捏造に関与したと「ダ・カーポ」の連載で取り上げてましたけど。

#さすがに嫌韓厨の様に韓国を一方的に非難はしていませんでしたが


by 杉山真大 at 2006-08-19 07:34:19
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

分析化学会は松本教授の件の論文について「捏造の事実無し」と結論づけたそうですね。
http://www.asahi.com/science/news/TKY200607290492.html
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/2246/1116734086/292

でも「論文の一部は信頼性が十分でない」上にデータについて「極めて考えづらい値」が出ているところを見ると、この問題どちらかと言うと「病的科学」の範疇に入るんじゃないかと思うのですが、如何ですかね?


by apj at 2006-08-07 22:52:07
Re:早稲田の研究費流用&データ捏造疑惑

 いや、同業他社はほとんど誰も内容については本気にしてない(というか注目してない)し、「病的科学」ですらないでしょ。単なる壮大なポカの可能性はあるけど。

 中国人や韓国人を差別するつもりはないけど、実際、信じられないようなレベルの奴が混じってることは確かなんだよな。実際経験した例では、博士課程の学生で、JIS法で分析やってる時に「この計算式のこの値は小さいから無視してよい」と勝手に判断してマニュアル通りにやらず、全く同じサンプルを同じ方法で分析した企業から派遣された日本人研究生と一桁違う値を出して、自分の方が絶対に正しいと言い張ったり。自分はプログラムが得意だというから任してみたら何一つできなかったり。実験装置の説明を聞かずマニュアルも読まず適当操作であわや爆発事故か破損でウン十万の損害か、なんてことはしょっちゅう。必要な試薬を自分で準備せず、実験を始めてから他人の試薬瓶に直接怪しいピペットを突っ込もうとしたり、他人が別実験のために準備してた緩衝溶液をくすねて使い、pHが違ってサンプル全滅したと怒り狂ってたり。
 この手の奴は、自己主張だけは強いから、現場で一緒に仕事をしてない上の人からは、最初のうちだけは積極的で優秀な人だと思われちゃったりするのね。問題のポスドクも、この種の人だったんじゃないかと思わないでもない。もちろん、根本的にセンスがないから、普通の分析装置を使って出してきた値も全く信用できない。装置付属のソフト使ってデータ処理しました、なんて言われても、何やってるか全く理解せずでたらめな処理をやらかしてる可能性の方が高いんで……。

 なので、問題の論文の図の雑な作りを見たとき、過去に出会ったこういう院生達が記憶から甦ったわけでして……。