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教養の講義で意外な質問が

Posted on 5月 22nd, 2005 in 倉庫 by apj

 今年から教養の化学で「科学リテラシー」というのをやっている。化学の基礎的な知識や、水の話を紹介しつつ、科学的情報の扱い方を考えようというものだ。去年までは「水の化学」と言ってたのだが、もう少し「騙されないための考え方、科学知識の使い方」にシフトしようと思ってタイトルを変えた。一般向けなので、文系も含め全学部が対象である。出席確認のため、毎回、出席カードを配って回収しているが、裏がコメント欄になっている。講義では毎回プリントを配り、そこに前回出た質問やコメントをまとめて掲載していて、大教室でのマスプロ講義なのに、毎回結構な数の学生さんが質問や感想を書いてくれている。科学(化学)そのものについての質問や、日常の疑問(例えば電子レンジの原理とか)がほとんどで、何だか子供電話相談室のノリになってきている。その中でこんなのがあった。

少し古いアニメで「ルパン三世」がありますね。その中で石川五右衛門が『斬鉄剣』を操り、鋼鉄の金庫からヘリコプターに至るまで切り捨てていくシーンをよく見かけますが、刀って基本的に「鉄」のはずなのに、なぜ「斬鉄剣」は「鉄」の金庫などを相殺を受けずに斬れるのでしょうか。

フィクションの話を訊かれたのはこれが初めてだ。
 アニメの表現手段なんていろいろあるわけで、ディズニーのアニメのキャラクターの動きが厳密に物理法則に従ってない(落ちる寸前しばらく空中に止まって、焦ったり驚いたりしてから落ちる、など)理由を問うのとどれほどの違いがあるかとは思うのだが、そう言って切り捨てるのも何だしなあ。そういえば、「ロジャー・ラビット」(アニメと実写が共存しているという設定)で、実写の俳優がアニメのピストルを拾って発射したら、弾が十字路まで飛んでいって、左右を見てからターゲットの方に曲がっていったので実写俳優が「やってらんねぇよ」とため息をつく、てのがあって、大笑いしたのを覚えている。
 ここは一つ、フィクションに向き合うときの科学考証とSF考証の違いについて議論でもしておくとするか。まあ、ルパン三世がSFかどうかというのは異論も多数あることだとは思うが。
 「科学的に正しい結論はこうだ」という議論をするのが科学考証、「どうすれば作品世界を説明できるか、そのためにはどこでどう嘘をつけばよいか」を考えるのがSF考証で、どちらも科学の知識を必要とするが、全くの別物である。前者に近いのが柳田理科雄の「空想科学読本」シリーズ、後者が長谷川祐一の「すごい科学で守ります」シリーズだろう。フィクションを科学的に否定することは誰でも簡単にできるし、やって面白いかというと、あんまり面白く無さそうだと思う。作品を味わい尽くすには、SF考証をして、成り立たせるために何が必要かを考える方が、より楽しめるのではないか。ただ、ルパン三世にSF考証が果たして必要かというと……ちょっと微妙かな。もともと、実写じゃできないアクションやコミカルな動きも魅力の一つだし、それを成り立たせるための細かい設定も必要としていないようだし。素直に楽しめや、ってことでFA?


ここからは旧ブログのコメントです。


by 温泉カワセミ at 2005-05-55 19:58:55
Re:教養の講義で意外な質問が

>素直に楽しめや、ってことでFA?

あははははは。ソレを言っちゃお仕舞いですがな。
ほな、「元金属屋の卵」「現無機構造材料屋」として怪しい解説を考えてみますかねぇ。

<材質的考察>
 まず、同じ鉄だからと言って特性が同じではなく、特に今回斬るという「加工」に重要な特性である「硬度」は、添加した合金組成によって、また焼き入れ等の熱処理によって数倍も変わるので、一概に「相殺」と言える程のことになるとは言えない。例えば、工具鋼、特に高速度鋼(ハイス)を使えば鉄系素材の加工も可能である。(高性能とは言い難いが)また、斬鉄剣の材質を、所謂純粋な鋼材に限らなければ内部に砥粒のような硬質物質を粉末状で分散させることも可能であるし、炭化タングステンにコバルトを加えて焼き固めた、金属加工に広く用いられている所謂「超硬合金」も見た目は金属そのものであるため、アニメの絵では判別は付かないであろう。超硬の場合、比重は鉄の2倍ほどあるので重量増加が懸念されるが、刃先のみに挿入すれば重量増加は限定的になると推測される。

<切断機構的考察>
 金属材料を「斬る」場合、包丁で肉を切る状態をイメージしてはならない。このためには被加工材が、刃物の侵入に相当(最低、刃の厚さ)する分「変形し得る」ことが前提となっているが、いくら達人とはいえ、それなりに厚肉の金属部材をソコまで変形させるのは、人力では困難なためである。また昔、刀の出来映えのデモンストレーションとして、兜(当然鉄製)に振り落とすことがなされたが、これはあくまで「割る」のである。イメージとしては最初の打撃で生じた亀裂に、刃という「くさび」をさらに打ち込んで、ムリヤリ隙間をこじ開ける破断法である。しかし、この場合も兜のような薄い鉄板ならともかく、金庫のような厚肉鋼材を破壊するのは人力(力を作用させるための質量も)では不足であろう。加えて、この様な破壊の場合、亀裂は直線的には進展せず肉眼で違いが分かる程の亀裂の偏向や亀裂面の凹凸が観察されるが、アニメでの描写では明らかに切断面は直線的かつ平滑面であるため、この可能性も低い。
 よって、斬鉄剣による金属切断機構は、一般的な金属加工と同じく「研削」つまり「刃厚の分を削り取る」ことによっている可能性が高い。おそらく、刀身を高速に振動させて触れるモノを瞬間的に削っているのであり、このためには刃先には微細な凹凸を、積極的に形成していることが予測される。1秒間に30コマ用いられるアニメの描写ですらこの様な「振動」は見えないことから、おそらく100Hz以上で微小距離振動させているのであろう。要するに斬鉄剣は「刀の形をしたヤスリ」なのである。おそらく、五右衛門のような「超達人」にしか発揮できない切断法であり、他の主要登場人物が斬鉄剣で鉄斬りをしていないことからも推測される。

ちょっと長くなりましたが、これなら納得して貰えるかなぁ?


by apj at 2005-05-20 00:15:20
Re:教養の講義で意外な質問が

あの……コレ、怪しい解説として紹介しちゃっていいんですかねぇ?
あんまり真に迫ってると、また別の誤解をしそうというか信じそうだし。
一応、科学考証じゃなくてSF考証として紹介するってことで……(汗)。


by 温泉カワセミ at 2005-05-31 03:31:31
Re:教養の講義で意外な質問が

いや、もちろん「怪しい」付でないと困ります。(^^;)
一応フィクション用の考証なので、中に論理の矛盾とか大事なトコを意識的に無視してる部分もありますから。そこまでギチギチに詰めると、フィクションが成立しませんからねぇ。
紹介して貰える分には、なんも問題おまへんので宜しゅう。(出来たら、ドコがオカシイってつっこんでくれる位の学生さんやと頼もしいんですけどね。)


by と at 2005-05-04 03:18:04
Re:教養の講義で意外な質問が

こちらでは、はじめまして。

原作漫画では斬鉄剣の原料は隕石という設定でした。
確か、斬鉄剣を超える剣を作ろうとする刀鍛冶の娘が、自分の肌で発熱している(RIか?!)斬鉄剣の温度を覚え、その温度になるように刀を作ったというエピソードがあったと思います。

「アニメ版斬鉄剣は正宗、虎徹、良兼を溶かして打ち直したもの」だそうです。
http://www.geocities.jp/ystomy/nihontou.html


by 温泉カワセミ at 2005-05-02 06:34:02
Re:教養の講義で意外な質問が

と さん、
私もアニメの方の設定は気になってたのですが、基本的にあのアニメは「一話完結モノ」で、ある回で紹介されたエピソードは、他の回には反映されない(特に赤ジャケットの2ndシリーズ)って考えとかないと、考証するのが虚しくなりますから(笑)。だって、1stシリーズで最初に斬鉄剣(要するに五右衛門)が出て来たときには、とさんご紹介の「名刀を溶かして」云々って話やったのに、数話後では五右衛門の師匠がルパン2世から製法を盗んだって話になってましたしねぇ・・・
元金属屋の卵として反応すると、「幾ら名刀でも熔かした時点で、アウトやがな」って、つっこみたいですけどね。原作の設定が隕鉄原料やっちゅうのは知りませんでしたが、まぁ原作漫画ってハードボイルドとかSFとかと違てナンセンス漫画やからなぁ。まぁ隕鉄って炭素量がかなり少ないはずなんで、たぶん所謂鍛冶屋さんの方法や温度では鍛造しにくいでしょうね。ヘタしたら焼き入らんのと違うやろか?


by と at 2005-05-35 16:30:35
Re:教養の講義で意外な質問が

>温泉カワセミ さん

なるほど、隕鉄の鉄は扱いにくいのですね。
「遊星からの金属X」ぐらいの感じですね(^^;
こんにゃくは切れないしなー