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ビリーバーは説得できない

Posted on 6月 18th, 2008 in 倉庫 by apj

 ニセ科学に限っての話として始めるが、「ビリーバーは説得できない」というのは本当である。ただ、これは、いわゆる「上から目線」でもないし「お前がバカだから」といった意味でもない。

 私が今ぶつかっている、説得できない場合の典型的な例としては、吉岡英介氏との紛争がある。吉岡氏は「磁石で水は変わる」と強固に主張し続けていて、過去に、関わっていたビジネスが公取の排除命令を受けたことも納得せず、かといって客観的な証拠を出して説の精度を上げるでもない状態で、紛争を続けている。こうなると「ビリーバーは説得できない」どころじゃなくて、「ビリーバーとの論争の行き着く先は法的紛争である」と言った方が、事実を正確にあらわしている。
 別の説得できない例としては、ニセ科学を信じることが心の安定になっているような場合がある。例えば、いろんなナントカ健康食品の遍歴を重ねて今は水にはまっている、という人の家族から相談されたことがあった。説得の方法を教えてうまくいったとしても、その人は今度は別のカントカ健康食品にはまることが予想され、健康食品による健康被害の可能性が現実にあることを考えると、無害な水にはまっているほうが安全だから、むしろ説得すべきじゃないという結論になった。何かに頼ってないと不安というのは、人生観の問題なので、科学の知識を伝えたり、今信じているものがまずいということを伝えただけでは、どうにかできるものではない。

 「ビリーバーであること」を支えている主な理由が、吉岡氏の場合は「商売」、相談者の方の場合は「人生観」と思われる。何を価値あるものと考えるかというのは人それぞれだから、「ビリーバーを説得する」ということが、場合によっては「その人の価値観自体を変える」ということになってしまう。これは難しい。普通はネットの対話でどうにかできるようなことではない。家族や近しい友人であっても、対話によってある人の価値観を変えさせるということができない場合はいくらでもある。ある程度の強制力をもってしても無理だったりする。第一、「その人の価値観を変えてやろう」などというのは、かなり大きなお世話でおこがましいことだったりするのではないか。

 「ビリーバーは説得できない」というのは、「ある個人の価値観自体を変えさせるのが不可能な場合が多々ある」という、極めてありふれた現実を別の表現で言ったに過ぎない。
 信じている内容がその人個人の人生観にまで深くリンクしていなければ、対話で説得できるかもしれないのだけれど。

【この件について言及しておられる方々】
「ビリーバーは説得できない」について(思索の海)
説得という事(Interdisciplinary)
信奉者の説得について(Skepticism is beautiful)
「説得する」(Chromeplated Rat)


ここからは旧ブログのコメントです。


by Pooh at 2008-06-26 20:26:26
Re:ビリーバーは説得できない

常識というのは、過去わずか数千年間の経験から培われた価値観であって、普遍性を持つものであるとは限らないのだ。
 たとえば、地球外知的生命体の存在は、我々の常識から言えばありえないが、科学的に考えると、そう簡単に否定されていいものでは決してない。
 銀河系だけでも太陽のような恒星が1000億個ある。その中には地球とよく似た環境の惑星はそれこそ無数にある。さらに、我々の銀河系以外にも銀河は何億個も存在する。だから、生命を発生・維持させうる環境はそこら中にあると考える方が自然なのだ。

 こう見てくると、人類以外の知的生命体がいないと考える方が、よっぽど論理的でない。論理的思考の持ち主なら、いると結論付けるのが当然だろう。
 ただ、たとえいるとしても、広大な宇宙空間を越えてはるばる地球までやってくるのは、技術的に不可能だと常識は主張するかもしれない。
 実際、太陽系に一番近い恒星であるプロクシマまで光で行っても4年とちょっとかかる。スペースシャトルだと16万年だ。とても行けた距離ではない。
 ただ、これは現在の技術レベルでの話である。
 科学技術が発展してからまだせいぜい500年である。長く見積もっても5000年だ。それに比べて、宇宙は137億年の歴史がある。中には数十万年から数百万年の発展の歴史をもつ文明がいてもおかしくない

 次に、物質ではない世界、つまり非物質の世界の存在についても、世の常識はそれを否定する。これについては、過去数千年の経験からそう言うというよりも、むしろ、ここ数百年の科学至上主義の結果と言っていいだろう。それ以前は、こういう世界の存在はむしろ世の常識の一部として通用していたと考えられる。昔の人は、死後世界や、死者の魂の存続を当然のこととみなしていた。特に日本ではそうだったと思う。それが、ここ数百年間に大きく変わったのだ。
 非物質の世界があるということは、別に科学的に否定されたわけではない。よく非物質界の存在は科学的におかしいと言う人がいるが、それは誤りである。その存在は科学となんら矛盾しない。現代の科学の扱う範疇に入らないだけなのだ。


by あんじ at 2008-06-10 08:46:10
なぜ?

 どうしてこの話題にはお返事がないのでしょうね?

 ところで、「ニセ科学のビリーバーは説得できない」ということに関して、非常に恐れを抱いています。
 というのは、そろそろ自分の買ったマンションが築10年目を迎えるのです。こう言えば、あなたはすぐピンと来るはずです。
 もうすでに怪しげな営業はたくさんありました。レンジフィルターや換気口のフィルター、キッチン天板のコーティングやら、風水関係やねずみ撃退やらなんやら。でも、不思議と水関連はなかったんです。
 そうなんです。今までは個人のお金を当てにしていたんですが、次のターゲットは管理組合のお金です。これは魅力的だ。額が違いますもの。おまけに戸別訪問営業なんて面倒もない。
 で、5月末に、JSPのチラシがポストに入っていました。白黒コピーのあんまり立派じゃないのが。昔の学級新聞みたいな素朴なやつです。とって置けばよかったのですが、怖くてびっくりしてすぐに燃やしてしまいました。
 中規模改修までまだ3年もあるのに早過ぎるだろ?と思って管理会社にきいたら知らんという。いろいろ探ると、どうもマンション住民の誰かがやったことらしい。なにか工作のにおいがするのです。やばい。やばすぎる。
 件のチラシには、配管更新とのコスト比較が書いてありましたが、JSPのがちょっと安いという。って、それでもうん千万じゃん!だいいち、配管更新って、そんなにかかるの?
 ぼくは一応現役土木建築業界の人なので、このへんのことはよく調べておこうと思います。


by apj at 2008-06-14 09:31:14
マンションの場合は金が絡んでいる可能性がある

あんじさん、

 ぶっちゃけ、怪しい製品が導入される場合は、管理組合とか理事会のという一部が強硬に導入を主張し、それに何も知らない住民が従う、という形になるようです。
 最も考えられるのは、管理組合や理事会メンバーへのリベートでしょう。ただ、証拠を掴むのは至難の業だと思います。
 出来ることとしては、工事の効果を保証させ、無かった場合の補償の際に、導入を決めた管理組合のメンバーにも弁償させる形をとるといった、リスクを負わせる方法をとるしかないかもしれません。
 なお、磁気活水器の場合は、磁気活水器に仕込まれた亜鉛板が溶け出した効果だったり、管を接地するのがノウハウとされていて実はそれが亜鉛めっきを溶出させることで下流側の錆を防いでいたというオチがあったりします。管の錆がとれた写真は宣伝用でいくらでもありますが、その時活水器の内部がどうなっているかという写真は何故か出てこないというところにからくりがあるかもしれません。

 また、管理組合だと一般消費者と見なされず、景表法の適用が難しいので優良誤認で排除命令が出しづらいようです。法改正が必要な分野です。もし、議員さんに知り合いが居たら、改正して管理組合等の素人の集まりは一般消費者とみなすという方向で何とかならないか、プッシュしてみてください。


by apj at 2008-06-19 11:27:19
これをコピーしてばらまいてはどうかと

東京都の出した文書です。

「活水器」の表示に関する科学的視点からの検証について
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2005/02/20f2f101.htm

 これのコピーを作って全戸のポストに投函してはどうでしょうか。