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ポスドクに限った話じゃなかった

Posted on 6月 30th, 2008 in 倉庫 by apj

 asahi.comの記事より。今度は弁護士の就職難の話。

「弁護士の就職難」鮮明に、未内定者が倍増 日弁連調査

2008年6月30日11時8分

 年内に修習を終える司法修習生を対象に日本弁護士連合会がおこなったアンケートで、「就職が決まっていない」と答えた修習生が前年同期の2倍になっていることが分かった。法曹人口の増加に伴って問題になりつつある「弁護士の就職難」。今年はさらに厳しくなっているようだ。

 日弁連が4~5月、新司法試験と旧司法試験に合格して年内に司法修習を終える見込みの2383人にメールし、1041人が答えた。その結果、新司法試験合格者の232人(29%)と、旧司法試験合格者の31人(12%)の計263人が「弁護士を志望しているが、就職先は未定」と回答。全体の25%にあたり、前年の13%からほぼ倍増していた。回答していない修習生も含めると、推計で500人以上の就職が決まっていないことになる。

 司法試験の合格者数は、法曹人口を2010年ごろまでに年間3千人に増やす政府の方針に基づき、年々増えている。昨年も大勢の就職難が予想されたが、日弁連が弁護士事務所に強く採用を働きかけるなどしたため、弁護士登録できなかった人数は低く抑えられたという。だが、日弁連は「今年は難しい」とみている。(市川美亜子)

 普通にやって弁護士として就職できるのは1500人/年、といったところなのだろう。これならば、ロースクールなど作らずに、旧司法試験の合格者をちょっとずつ増やしながら様子を見る、という方法で対応した方が良かったのではないか。
 どちらかというと世間知らずに分類できそうな博士課程進学者と違って、弁護士志願者は社会の状況に敏感だから、入学者が激減するという形でローの定員には調整がかかりそうだが、それでも合格者の集団がえらいことになるというのでは、やっぱり当分混乱するし、あまりいい結果にはなりそうにない。
 もともとOJT必須の職種で、経済的余裕が情報収集能力に直結するので、いきなり独立開業して育っていける人というのは多分ごく稀だろうし。


ここからは旧ブログのコメントです。


by 憂鬱亭 at 2008-07-43 05:48:43
「見積もり」がおかしいんじゃないかと

弁護士の話にしてもバイオの話にしても、
今後の需要の見通しが間違っていた、という話ですよね。

これって、結局道路建設や空港建設の際の需要予測と同じで、
きちんとチェックされていないということなんじゃないでしょうか。

進学させる側が言うのもまずいのかもしれませんが、日本の大学生って、社会が必要とするよりもはるかに多いんじゃないかと思うんです。
「大卒じゃないから」と生涯賃金一億円以上も差を付けられると、大学に行きたくなる気持ちもわかるのですが。


by apj at 2008-07-01 09:58:01
箱物の方がまだマシ

憂鬱亭さん、

 需要の見通しを間違えるのなら、箱物でやらかしてくれた方がまだマシです。

 さっぱり人が来ない道路や空港を作ってしまったとしても、赤字がかさむだけですが、人材養成をいじくると、赤字がかさむだけでは済まず、人生を棒に振る人が出てきますので。


by RBの残党 at 2008-07-29 10:07:29
Re:ポスドクに限った話じゃなかった

弁護士については、法律問題の相談先となる弁護士数が国として圧倒的に少ないということが問題であるとして、それが司法制度改革につながり、
弁護士数増という対応措置を採ったわけですから、その結果どうなるかは、当初から分かっていたはずですよ。
既存の弁護士事務所は少ないという前提で、解決策が「増」ということなんですから、「どこかに就職」という発想がずれているのです。
増えた弁護士は、既存の弁護士と提携しながら自分で自分を鍛え、新規弁護士事務所を開設すべし(就職ではなく、雨後の筍のように自分で生えるべし、立つべし)、という路線のはずです。
新米弁護士のための、公式コンサルタントとか、アドバイザーとか、トレーナーとかを、別に用意すればOKではないのかしら?
新規弁護士事務所が増えてくれば、それが弁護士増も吸収するはずです。
ただし仕事自体も増えてこないと路頭に迷う弁護士が出る計算となります。仕事はたぶん掘り起こされていくでしょう。
その過程で、弁護士vs税理士・司法書士・行政書士・弁理士などの職闘争も起こるでしょう。
そうすると仕事単価が下がって泣き寝入りは減り、閉鎖社会のボスの力も弱る方向となるはず。
メリット・デメリットは両方あるので、弁護士増が一概に悪いとは言えませんわ。


by apj at 2008-07-48 10:58:48
弁護士を使う側からするとデメリットが多い

RBの残党さん、

>法律問題の相談先となる弁護士数が国として圧倒的に少ない
 国が勝手に言い出しただけですよね。企業については足りていることがはっきりしてきつつあるし。

>既存の弁護士事務所は少ないという前提で
 この前提がそもそも変だろうと思うわけでして。

>新米弁護士のための、公式コンサルタントとか、アドバイザーとか、トレーナーとかを、別に用意すればOKではないのかしら?
 一体誰がやるんですか。現実の問題を抱えている忙しいベテラン弁護士にそんな余裕は無いでしょう。自分の所の若手を育てつつ仕事をするだけで手一杯では。
 普通の新人弁護士であれば、3年くらいはみっちりOJTされないと使い物にならない現実を無視しているんじゃないでしょうか。法テラスがイマイチなのも、弁護士にとって一定の収入が見込めても技術的進歩が見込めないからでは。

 今後予想されるシナリオは、
・既にベテランになっている弁護士については需要はあるから問題なし。単価が下がることもない。
・新人のうち幸運な人は、OJT先に恵まれてベテランの仲間入り。
・新人で十分トレーニングされなかった人がそのまま仕事を続けると、素人が依頼するときにハズレ弁護士を引く確率が上がる。つまり普通の依頼人にとってはリスクが増大する。
・食うに困った弁護士によるヘンテコ訴訟が増える。
・単価が下がったり、路頭に迷う確率が増えると、優秀な人材がそもそも来なくなるから全体としてレベルダウンする。

 田舎でこれまで相談先が無かった場所で法律問題相談先となって稼いでいる弁護士は確かに居ます。そういう弁護士が、訴訟が上手いかというと全然だめだったりすわけで。
 泣き寝入りの理由は、弁護士費用が高すぎることではなくて、賠償金の額が平均的に安すぎるからでは。弁護士費用を多少下げたって、打ち合わせやら何やらで手間も時間もかかりますし、それに見合った賠償金が認められないと泣き寝入りの方がマシ、ということになります。賠償金で弁護士費用が普通にまかなえて、かつ、投入した労力に見合う額が認められるようになれば、泣き寝入りはかなり減るのでは。


by いろものさんの近所 at 2008-07-01 06:08:01
Re:ポスドクに限った話じゃなかった

いろいろな情報が簡単に手が入り、分析にコンピュータが簡単に使える時代に、「見積り」を大幅に間違うというのは、よほどの無能者ではないでしょうか。

そういう無能な人間が、政策決定をしているのなら、それはそれで問題ですが、それよりは、意図して過大な見積りをしているというのが、妥当だと思います。

# これからは、公務員改革で有能な人が行政府にいかなくなりそう。意図せずに見積りを間違えそうな時代が…

apj さんは政府や産業界のせいにしているけど、大学も結構関係しているのではないかと。

農業の衰退→農学部の衰退→一発逆転のバイオ

規制緩和+小さい政府→法学部出身者が余る→ Law school

みたいな流れがあるようにも見えます。


by apj at 2008-07-36 08:32:36
決定に関わった覚えもないのにねぇ……

いろものさんの近所さん、

>農業の衰退→農学部の衰退→一発逆転のバイオ

 こういう流れなんですかねぇ……。そういえば昔、団藤さんが農学部には十分研究費が回っているはず、とか書いておられたような。と思って調べたら、バイオは増やせ、でも農学は足りてるって話だった……。
http://www.dandoweb.com/backno/20010308.htm

>規制緩和+小さい政府→法学部出身者が余る→ Law school

 どこかで読んだたとえ話なので、私のオリジナルじゃないのですけどね。例えば、隣がうるさいという時に、警察とかに相談して何とか言ってもらうのが大きな政府。隣がうるさい時に、自分の顧問弁護士に電話をして、隣の顧問弁護士と話をつけてもらって解決するのが小さい政府、ってのがありました。
 ですから、むしろ、
 規制緩和+小さい政府→紛争は当事者で解決→弁護士が必要→Law school
 という見通しだったんじゃないかと思うんですが……。


by 匿名希望 at 2008-07-56 09:36:56
層の厚さというか底上げというか

>日本の大学生って、社会が必要とするよりもはるかに多いんじゃないかと思うんです。
私は一介のプログラマですが、外注さんとかと一緒に仕事をする際には、やっぱり「大卒でなきゃ話にならん」と思うことが多いです。専門学校卒の人でも決まりきったプログラムなら書けますが、ほんのわずかでも算数が出てくるとお手上げですし(「数学」ではない。まじめに加減乗除が使えない)、仕様書などで文章を書く能力も、マニュアルの英語を読む能力も、かなり学歴に比例します。
二軍の層が厚い球団の方が強い、みたいな現象はあると思うので、多くの人が高等教育を受ける社会の方が望ましいと思うんですが。
もちろん、二軍の人がちゃんと食えるのが前提ですけど。

普通に考えれば、博士号や司法試験の合格証書を持っている人は、企業から見ても少なくとも単なる学部卒よりは価値が高いはずだと思うんですが、そうじゃないというのなら不思議なことです。


by 憂鬱亭 at 2008-07-15 02:19:15
層の厚さとしては

>匿名希望さん

ハンドルネームとして扱いづらいので、名前を変えて固定してくださると話がしやすいです。

「日本の大卒だから算数や英語がわかる」のではなくて、
「現在の日本では算数や英語がわかるやつはみんな入学できるほど大学生の数が多い」のではないでしょうか?

同時に「入学できるなら大学に入り、更に進めるなら博士号を取った方が生涯賃金が高い」から、可能な人は進もうとするのですよね。以前はこれに「就職に有利だから」もついていたんですが、微妙になってきました。

つまり、仕事をさせる側に個人の見極めをする能力または余裕が無いので、学歴などで代用している、ということです。

博士号を持っているけど、しょうもない教員もいるし、
学部しか出てないけど仕事ができる人もいますよ。
給料は博士号持ってる人のほうが高いんですけど。


by いろものさんの近所 at 2008-07-26 07:07:26
Re:ポスドクに限った話じゃなかった

憂鬱亭さん

> 同時に「入学できるなら大学に入り、更に進めるなら博士号を取った方が生涯賃金が高い」から、可能な人は進もうとするのですよね。以前はこれに「就職に有利だから」もついていたんですが、微妙になってきました。
つまり、仕事をさせる側に個人の見極めをする能力または余裕が無いので、学歴などで代用している、ということです。

就職で有理だった学歴は理工系の修士までで、文系だと修士くらいから、理工系でも博士は基本的に就職には不利でした。

それから、学歴が職能や賃金と相関すると言うのは、社会にとっても学校にとっても良い事ではないですが?

学校は社会に出るに当たって必要な教育を施している事になるし、企業側からしても、採用人事の手間や費用を押える事ができて、本来の生産活動に多くのリソースを割けるわけですから。


by 匿名希望PG at 2008-07-51 08:01:51
Re:ポスドクに限った話じゃなかった

>ハンドルネームとして扱いづらいので、名前を変えて固定してくださると話がしやすいです。

了解です。これでいいでしょうか?
普段は別の固定ハンドルなんですけどね。内容が内容だけにいつもの固定ハンドルでは書きにくいので。

>つまり、仕事をさせる側に個人の見極めをする能力または余裕が無いので、学歴などで代用している、ということです。

これはまったくそのとおりで、学歴はその用途に「そこそこ」有用である、というのが前回の投稿で言いたかったことです。というか、特に新卒採用においては、他に評価の基準がないでしょう。

まあ、その理屈からすると、大学は入学試験さえやっていればいい、ということになってしまいますが、実のところ文系の大学生なんてもう本当に勉強しないので、実態としては既にそうなっているような。
でもハイレベルな大学にはハイレベルな人が集まるので、4年間遊んでいるように見えてもそれなりに吸収できることはあると思うんですけどね。

>博士号を持っているけど、しょうもない教員もいるし、
>学部しか出てないけど仕事ができる人もいますよ。

たとえば博士号を持っている人なら「論文を書きなれている(英語で)」んじゃないでしょうか。それがすべての職種で常に有用なわけではないにせよ、他の条件が同じなら、これだけでも相当なアドバンテージになると思うんですけど。
「博士号を持っているけど、しょうもない教員」が例外的ならいて当然ですが、平均して学部卒と差が見られないとか、学部卒よりかえってひどいということなら、「不思議なことです」という意味で前回のコメントを書きました。

>給料は博士号持ってる人のほうが高いんですけど。

「はかせが100人いるむら」みたいな話を聞くと、給料のいい悪い以前に職がない、ということだと思ってたんですが、そうでもないということでしょうか?

あと、日本の大学進学率は、OECD内で平均以下です。だからどうとすぐに言えるわけではないですが、大卒が多すぎ、とは言いにくいんじゃないでしょうか。
http://youkoclub.blog87.fc2.com/blog-entry-666.html


by 匿名希望PG at 2008-07-00 08:13:00
すみません、補足です。

>給料は博士号持ってる人のほうが高いんですけど。

職がないのと給料高いのは別の話だ、と言われそうなので補足します。
普通に考えて、博士号持ちに期待される能力分だけ給料が高いわけで、もし博士号持ちがそんなにたいしたことないなら、その差額も市場原理にのっとり縮まっていくでしょう。結果的に博士になるために必要なコストを下回ってしまうかもしれませんけど。
その上で、同確率で就職できそうに思うんですが、「博士が100人いるむら」とか見てるとそうでもなさそうなので、不思議だなあ、と。